
ジェラシーサンド。
赤ピーマンを焼いて、ベーコンを焼いて、玉ねぎを焼いて、マッシュルームを焼いて、焼いた食パンにサンドした。そして彼女は“焼きもち”もこっそり挟んでおいた。彼は無邪気にほおばり「うまい!」とほめた。彼女はふふふと微笑んだ。彼は「暑い!」と汗をぬぐった。(ジェラシーサンドは私の真っ赤な火で出来ているからね!)ある夏の午後のハナシ。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。
赤ピーマンを焼いて、ベーコンを焼いて、玉ねぎを焼いて、マッシュルームを焼いて、焼いた食パンにサンドした。そして彼女は“焼きもち”もこっそり挟んでおいた。彼は無邪気にほおばり「うまい!」とほめた。彼女はふふふと微笑んだ。彼は「暑い!」と汗をぬぐった。(ジェラシーサンドは私の真っ赤な火で出来ているからね!)ある夏の午後のハナシ。
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そのモヤモヤは何色。グレイ。黒。何色だっていい。おにぎりみたいにギュッギュッと手のひらで丸めるんだ。モヤモヤをひとつ残らず丸めるんだ。(けっこう重さがあるね)そうして窓を開けて大きな空にポーーーンと投げる。高く高く飛んでいく。雲の中に消えていく。ふーっ。軽くなったね。すっからかんになったね。もう無傷のあなたに元どおり。
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ひらめきは、きらめき。きらめきは、ひだりきき。ひだりききは、るみこせんぱい。るみこせんぱいは、ばすけのえーす。ばすけのえーすは、れもんのさとうづけ。れもんのさとうづけは、すっぱいかお。すっぱいかおは、ひらめいたときのかお。
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(太陽さんの活躍で、地面が熱くなっています。素足で歩くとヒリヒリしてしまうので、外出の際は下駄を履きましょう)ねこ公民館には張り紙がはられました。ねこたちはお祭りのときにしか履かない下駄を、道具箱の中から引っ張り出しました。カニャン、コロン、カニャン、コロン。路地裏ではねこたちの下駄の音が響いています。「首を掻きたいときは、少し面倒だね」「後ろ足の下駄をいったん脱いでから、首を掻かないとだね」なんて会話もうまれます。すると、シャラン、シャカン、シャラン、シャカンという音が聞こえてきます。ん?なんの音?隣のお兄さんのリュックに入っている、水筒の中の氷の音だったのです。ねこたちがカニャン、コロンと歩くたび、お兄さんのシャラン、シャカンが鳴りました。ふたつの音があわさって、とても涼しい音楽になりました。
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生きていることの嬉しさと哀しさがごちゃ混ぜになって身体を突き抜けそうになったので、とりあえずアパートを飛び出した。じっとしてはいられなかった。走る、走る、走る。初夏の夜は湿った土と草の匂い。ずいぶん走った。とうとう足が止まってしまう。自分の吐く息と心臓の音。半分の月がぼんやりと浮かんでいる。ブロック塀にブルーベリージャムがぶち撒かれている。テラテラとしたブルーベリーが月夜に照らされている。(僕のかわりに)誰かの衝動がそうさせたのか。河原の方から、サックスの音色が風に乗って流れてくる。ブルーベリーとブルースが混ざりあって、僕の一番奥の方にノックした。
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嬉しさと悲しさを仕分けしていたら、悲しさの中に一滴の嬉しさが滲んでいることに気がついて、仕分けできなくなっちゃった。好きと嫌いを仕分けしていたら、そもそも好きとか嫌いとか嫌いだってわかって、仕分けできなくなっちゃった。相手のせいとジブンのせいを仕分けしていたら、全部がジブンのせいに思えてきて、仕分けできなくなっちゃった。冷蔵庫の中の整理は得意なのに、こころの中の整理は苦手です。
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文房具屋の娘はプンプン怒ってばかりいたので、あたたかいミルクを足してまろやかに調整した/プールの監視人のお兄さんは失恋がこたえていたので、メロドラマを上映している映画館の前は下を向いていて歩いた/素直に後輩を褒めることができない女史は、世界をぼんやり映したくてコンタクトレンズを捨てた/ヨット柄のサマードレスを着た寮暮らしの大学生は、ブラックコーヒーに砂糖少々をかき混ぜた/彼の前ではしっかり者に演じてしまう自分を、少しでも甘めにしたかったから/みんないろんな工夫しながら生きている
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元気がでないときは、ドーナツの穴から世界をのぞいてみるといいよ。悲しいことも、不安なことも、こわいことも、ドーナツを通して見てみると、すべてがコメディにおもえてくるから。そういうことかあ!って笑ってしまうから。そんな頃合いで、あまいあまいドーナツをいただきましょう。200年前に書かれた「ドーナツの正しい使い方」より。
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どんなに努力したって、ヨルはヒルになれない。ソフトクリームをなめながら横断歩道を渡る高校生や、野菜や肉をたくさん買い込んだ元気なママや、まるい足をバギーにのせた赤ちゃんに会えるヒルがうらやましかった。暗くなるとみんなは家に帰り、窓とカーテンをパタンと閉める。ヨルはさびしかった。でも今夜は違う。ブルーのワンピースを着た女性がベランダに出て、夜空を見上げている。大きなため息をついてひとこと言った。「もう忘れるね」彼女は恋人とサヨナラしたらしかった。ヨルは夜風をそっと吹かせた。彼女の髪は揺れ、ぐーっと伸びをしてふっと口角を上げた。ヨルだからできることがあった。ヨルはヨルのままでいいのかもしれない。そう思った。
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砂浜をまっすぐ歩けないのは、海からあがったばかりだから。波の揺れが身体ぜんぶを占めている。潮風が髪の毛の中に入り込んで、ほわんほわん。頭の中もほわんほわん。つまらないともだちのジョークにも大笑いしてしまう。パラソルの下にもぐったら、日焼け止めを塗るつもりだったけど。もうどうでもよくなった。目をとじても太陽がいる。乾いたのどにコカコーラを流し込みたいけど。誰が買いにいくかジャンケンが必要で。海のだるさは、地球上でいちばんここちいい。
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ふわっと映像が浮かんで、
こころが6.6グラム(当社比)軽くなる。
ワンシチュエーションでつづる、
シラスアキコのショートストーリー。
自分がジブンにしっくりくる感じの時は、気分がいい。
こころと身体が同じ歩幅で歩いているのがわかる。
いつもこんな感じで生きていきたい。
でも、かなりの確率でイライラと聞こえてくる
「お急ぎのところ、電車が遅れて申し訳ございません」。
そんな時は“ここじゃないどこか”に、
ジブンをリリースしてしまおう。
きっと気持ちの針が、真ん中くらいに戻ってくるから。
広告代理店でコピーライターとしてのキャリアを積んだ後、クリエイティブユニット「color/カラー」を結成。プロダクトデザインの企画、広告のコピーライティング、Webムービーの脚本など、幅広く活動。著書に「レモンエアライン」がある。東京在住。
color / www.color-81.com
レモンエアライン / lemonairline.com
contact / akiko@color-81.com
◎なぜショートストーリーなのか
日常のワンシチュエーションを切り抜く。そこには感覚的なうま味が潜んでいる。うま味の粒をひとつひとつ拾い上げ文章化すると、不思議な化学反応が生まれる。新たな魅力が浮き上がってくる。それらをたった数行のショートストーリーでおさめることに、私は夢中になる。
イラストレーション
山口洋佑 / yosukeyamaguchi423.tumblr.com