目の検査でカラフルな気球を見つめていたら、すぅーっと吸い込まれて、気がついたらあっち側にいた。気球にはシャンパンが用意されていた。一口サイズのチーズもある。居心地は悪くない。私は少し地球に飽きていたので、行くところまで行ってもいいなと思った。ぐんぐん上へあがっていくと、宇宙色の空に変わってきた。液体のような紺色に、金色の星が敷きつめられている。気球から飛び降りて、星の絨毯の上にごろごろと転がってみる。金色の粉がゆっくり舞い上がり、私の全身はきらきらと輝いている。上を見あげると、大きな半分の月が浮いている。月まで行ってみるか、どうするか。私はシャンパンの残りを飲みながら、考えてみる。気の抜けたシャンパンの味。恋人と語り明かした時の味。グラスの中の小さな泡が、ひとつふたつのぼっていく。(やっぱり帰ろう)ピンクに塗られた爪で、パラシュートに傷をつける。気球はゆっくりと地球に向かって下降していく。星屑を手ですくっては、シャンパンの空の瓶に入れる。地球に暮らす恋人へのおみやげに。
*今日で400話まできましたーーー。ちいさなお話が星屑のように浮かんでいます。いつも読んでくださってありがとうございます。まだまだ一緒に旅を続けてくださいね。
シラスアキコ
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。