401

つくろいもののじかん。

今日という日をたっぷり活動したから、身体もこころもくたびれました。お風呂でゆっくりとゆるみましょう。生まれたての赤ちゃんみたいに、ふかふかのタオルで包んであげて。透明な水をのどにすべらせたら、化粧水を肌にじんわりと染み込ませて。よく歩いたかかとにも栄養のあるクリームを。テレビを消して、夜空を見上げる。宇宙に明日の願いごと。眠るときは無責任な人になって、頭の中はからっぽに。

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

400

宇宙の泡。

目の検査でカラフルな気球を見つめていたら、すぅーっと吸い込まれて、気がついたらあっち側にいた。気球にはシャンパンが用意されていた。一口サイズのチーズもある。居心地は悪くない。私は少し地球に飽きていたので、行くところまで行ってもいいなと思った。ぐんぐん上へあがっていくと、宇宙色の空に変わってきた。液体のような紺色に、金色の星が敷きつめられている。気球から飛び降りて、星の絨毯の上にごろごろと転がってみる。金色の粉がゆっくり舞い上がり、私の全身はきらきらと輝いている。上を見あげると、大きな半分の月が浮いている。月まで行ってみるか、どうするか。私はシャンパンの残りを飲みながら、考えてみる。気の抜けたシャンパンの味。恋人と語り明かした時の味。グラスの中の小さな泡が、ひとつふたつのぼっていく。(やっぱり帰ろう)ピンクに塗られた爪で、パラシュートに傷をつける。気球はゆっくりと地球に向かって下降していく。星屑を手ですくっては、シャンパンの空の瓶に入れる。地球に暮らす恋人へのおみやげに。

*今日で400話まできましたーーー。ちいさなお話が星屑のように浮かんでいます。いつも読んでくださってありがとうございます。まだまだ一緒に旅を続けてくださいね。

シラスアキコ

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

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電車は遅れておりますが

ふわっと映像が浮かんで、
こころが6.6グラム(当社比)軽くなる。
ワンシチュエーションでつづる、
シラスアキコのショートストーリー。

自分がジブンにしっくりくる感じの時は、気分がいい。
こころと身体が同じ歩幅で歩いているのがわかる。
いつもこんな感じで生きていきたい。

でも、かなりの確率でイライラと聞こえてくる
「お急ぎのところ、電車が遅れて申し訳ございません」。

そんな時は“ここじゃないどこか”に、
ジブンをリリースしてしまおう。
きっと気持ちの針が、真ん中くらいに戻ってくるから。

シラスアキコ Akiko Shirasu
文筆家、コピーライター Writer, Copywriter

広告代理店でコピーライターとしてのキャリアを積んだ後、クリエイティブユニット「color/カラー」を結成。プロダクトデザインの企画、広告のコピーライティング、Webムービーの脚本など、幅広く活動。著書に「レモンエアライン」がある。東京在住。

color / www.color-81.com
レモンエアライン / lemonairline.com
contact / akiko@color-81.com

◎なぜショートストーリーなのか
日常のワンシチュエーションを切り抜く。そこには感覚的なうま味が潜んでいる。うま味の粒をひとつひとつ拾い上げ文章化すると、不思議な化学反応が生まれる。新たな魅力が浮き上がってくる。それらをたった数行のショートストーリーでおさめることに、私は夢中になる。

イラストレーション
山口洋佑 / yosukeyamaguchi423.tumblr.com