月と言葉とススキの葉。
塾の帰り、一本道は静まり返っていた。墨汁をひっくり返したような夜空に、たまご色のまるい月が浮かんでいる。道の両脇からせり出している大きな木々は怪獣のようだった。友達は拾ったススキの葉をぶんぶん振り回しながら、少し前を歩いている。
「あのさ、俺さ、塾の俺と、学校の俺と、家での俺、全然別人なんだよな」
自分はとっさに信じられないことを口にしてしまった。ひとりで悩んでいた秘密。絶対に“どこかおかしい”と悩み続けていたこと。友達は振り返ると、ススキの葉をバットにみたてて素振りをしてみせた。
「俺もだよ!」
そして彼はとぼとぼと歩き出して、自分もそれに続いた。月に照らされた彼の言葉は、自分の宝物になった。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。