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水着を包む仕事をしている。

今月の水着はセパレートタイプだった。トップは明るいブルーで、胸元にはヨットの刺繍があしらわれている。ボトムは明るいブルーとホワイトの縞模様だ。先月の水着はパイナップル柄のワンピースタイプだった。大きなパイナップルと小さなパイナップルが、交互に描かれていた。私は水着工場で働いている。ラインに乗ってくる水着を受け取り、美しくたたみ、柔らかな紙で包む。それが私の仕事だ。工場は広い敷地に建っており、何十部屋もあるらしい。私は隣の部屋にしか行ったことがない。そこは水着を箱に詰めて発送する部屋で、一日じゅうラジオがかかっていた。私は友達に言ったら驚かれるくらいのお金を銀行に預けている。来月、私はそれらのお金を全部おろして、水着工場を辞め、3年前に出会った男のこを追いかけて南の島へ行く。そして一生ここには戻ってこないつもりだ。男のこが働いているカフェしか知らないけれど、もうそこにはいないかもしれないけれど、私はその男のこと結婚するような気がしている。男のこに会ったらHi!と手をあげて挨拶するだろう。その時の私はデニム生地のビスチェに、ベビーピンクのフレアースカートを着ていようとおもう。手にはバニラシェイクなんかを持っていたい。それからのことは成りゆきで。きっとうまくいく。工場の窓から太陽のヒカリが本格的にさしてきた。あと7分で昼の休憩だ。家から持ってきたベーグルサンドがある。この暑さでクリームチーズが溶け出していないかが心配だ。

 

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

 

 

157

自分にしつもん。

おーい!って叫んでみた。

ふーんってかえってきた。

 

どうかーい?って叫んでみた。

まぁねってかえってきた。

 

どんな気分ー?って叫んでみた。

おなかすいたってかえってきた。

 

まだまだいくつもりでいるらしい。

わらっちゃうほどしぶといやつだ。

自分でじぶんをあまくみていた。

 

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

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あのこのバスケット。

まるいバスケットには何が入ってる。

太陽の味がするオレンジ。

カリッと弾けるリンゴ。

それとも砂糖たっぷりのドーナツ。

 

まるいバスケットには何が入ってる。

恋人のことをしたためた日記帳。

駆け落ち用のエアチケット。

それとも大きなダイヤモンド。

 

まるいバスケットには何が入ってる。

誰にも言えないかなしい過去。

見かけによらないド派手な野望。

それともそっとちいさな願い。

 

まるいバスケットを抱えたあのこ。

世界じゅうの秘密をひとりじめ。

誰も中身を知ることなんてできない。

たとえ神様だって。

 

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

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地球と息をしている。

灰色の雲から、

小さな水分が落ちてきて、

彼女の腕を濡らした。

 

そっと鼻を近づけてみた。

スモーキーなかおりがした。

 

こたえは出さないまま、そのまま。

中間のままゆらゆらと漂う。

 

どこかの家の、

グラスの中の最後の氷が、

無言で溶けて液体にかわった。

 

一羽の鳥が高く舞い上がると、

もう一羽の鳥と合流する。

二羽の鳥は、灰色の雲に吸い込まれていく。

 

地球の呼吸は、彼女の呼吸とまったく同じリズムだった。

ゆるやかなカーブを、いま一緒に曲がるところだ。

 

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

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電車は遅れておりますが

ふわっと映像が浮かんで、
こころが6.6グラム(当社比)軽くなる。
ワンシチュエーションでつづる、
シラスアキコのショートストーリー。

自分がジブンにしっくりくる感じの時は、気分がいい。
こころと身体が同じ歩幅で歩いているのがわかる。
いつもこんな感じで生きていきたい。

でも、かなりの確率でイライラと聞こえてくる
「お急ぎのところ、電車が遅れて申し訳ございません」。

そんな時は“ここじゃないどこか”に、
ジブンをリリースしてしまおう。
きっと気持ちの針が、真ん中くらいに戻ってくるから。

シラスアキコ Akiko Shirasu
文筆家、コピーライター Writer, Copywriter

広告代理店でコピーライターとしてのキャリアを積んだ後、クリエイティブユニット「color/カラー」を結成。プロダクトデザインの企画、広告のコピーライティング、Webムービーの脚本など、幅広く活動。著書に「レモンエアライン」がある。東京在住。

color / www.color-81.com
レモンエアライン / lemonairline.com
contact / akiko@color-81.com

◎なぜショートストーリーなのか
日常のワンシチュエーションを切り抜く。そこには感覚的なうま味が潜んでいる。うま味の粒をひとつひとつ拾い上げ文章化すると、不思議な化学反応が生まれる。新たな魅力が浮き上がってくる。それらをたった数行のショートストーリーでおさめることに、私は夢中になる。

イラストレーション
山口洋佑 / yosukeyamaguchi423.tumblr.com