287

行き先を決めない夜。

TOKYOの端っこのバルでアルゼンチンタンゴに身を任せながら、シードルを2杯。ジャン=リュック・ゴダールの映画で何が一番好きかという話題を盗み聞きしながら、ジントニックを1杯。先輩がステンカラーコートを頭までかぶって雨の中に駆け出していった光景をリマインドしながら、ラフロイグのロックをすすっている。どこにも着地しない思考の自由。つづく。

 

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

 

286

無言の伝言。

秋風はあのこのほっぺためがけて”ぴゅーっ”と吹いた。かなしいことの後は、うれしいことあるよ!って伝えたかったから。そして、かなしいことの中身は、うれしいことの種が混ざってるよ!って伝えたかったから。あのこは目を細めて迷惑そうにしている。その顔があまりにも可愛らしかったから、秋風はもうひとつ小さな風をおでこに吹きかけた。大丈夫だよ!

 

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

285

デイトのルール。

車道側を歩け。歩く速度を彼女にあわせろ。何が食べたい?って聞け。沈黙を恐れるな。(しゃべりすぎるな)服を褒めろ。化粧は褒めなくていい。友達から言われた注意事項を頭の中で繰り返しながら、僕はデイトの待ち合わせ場所に向かっている。ただ問題なのはエラそうな友達も、デイトの経験が一度もないことだ。

 

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

284

最高の再会。

数十年会わなかった友達と会った。1秒でむかしに戻れた。数十年ぶんの時間なんて、ひょいと越えられた。もう目が笑ってる。冗談を言わなくても、すべてが冗談みたい。面白くてしかたない。面白すぎて目に涙がふくらんできたよ。

 

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

283

ふあんとともだち。

ふあんは、ふわーんと近づいてくる。ふあんは姿かたちがない。どのくらいの大きさなのかもわからない。ニンゲンはふあんがダイキライ。ふあんを無理やり追い出そうとすると、ふあんはぴとっとくっついてくる。「ふあんよ!よく来てくれた」ふあんをふわーんと抱きしめてあげる。ふあんは安心していつのまにかいなくなる。

 

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

 

 

 

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電車は遅れておりますが

ふわっと映像が浮かんで、
こころが6.6グラム(当社比)軽くなる。
ワンシチュエーションでつづる、
シラスアキコのショートストーリー。

自分がジブンにしっくりくる感じの時は、気分がいい。
こころと身体が同じ歩幅で歩いているのがわかる。
いつもこんな感じで生きていきたい。

でも、かなりの確率でイライラと聞こえてくる
「お急ぎのところ、電車が遅れて申し訳ございません」。

そんな時は“ここじゃないどこか”に、
ジブンをリリースしてしまおう。
きっと気持ちの針が、真ん中くらいに戻ってくるから。

シラスアキコ Akiko Shirasu
文筆家、コピーライター Writer, Copywriter

広告代理店でコピーライターとしてのキャリアを積んだ後、クリエイティブユニット「color/カラー」を結成。プロダクトデザインの企画、広告のコピーライティング、Webムービーの脚本など、幅広く活動。著書に「レモンエアライン」がある。東京在住。

color / www.color-81.com
レモンエアライン / lemonairline.com
contact / akiko@color-81.com

◎なぜショートストーリーなのか
日常のワンシチュエーションを切り抜く。そこには感覚的なうま味が潜んでいる。うま味の粒をひとつひとつ拾い上げ文章化すると、不思議な化学反応が生まれる。新たな魅力が浮き上がってくる。それらをたった数行のショートストーリーでおさめることに、私は夢中になる。

イラストレーション
山口洋佑 / yosukeyamaguchi423.tumblr.com