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青いクレヨン。

真っ白い画用紙になに描こう。そうだ、大きな橋を描こう。画用紙の端から端までつながっている大きな橋。そして空を描こう。青いクレヨンだ。鳥が飛んで、雲が浮かんで、空はずっと高くて、高くて。青いクレヨンは画用紙からはみ出してしまった。でも、かまわない。空はずっと高いから、廊下からドアの向こうまで続いていて、ぐんぐん伸びていって、家からもはみ出してしまった。ペットショップを過ぎて、パン屋を過ぎて、公園を過ぎて、そろそろ右手がいたくなってきたけれど、かまわない。空はどこまでもつながって、あっ海が見えてきた。砂浜を通り過ぎて、海の中に入ったら、青いクレヨンは海に溶けていった。海を両手ですくってみた。空の青とクレヨンの青が混ざってきれい。あんなに高い空をいまこうして触っている。

 

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

143

コトバとバトコ。

バトコはコトバがきらい。

だって口にしたとたん変色してしまうから。

賞味期限は1秒もない。

だからホントのことはぜったい口にしない。

バトコはコトバがうまい。

相手がよろこぶコトバはすぐわかる。

バトコのコトバはダンスをしているようだった。

くるくると自由に踊り続けるコトバ。

バトコはきょう夕焼けを浴びた。

そうしたらホントのことが言いたくなった。

バトコはオトコに電話をした。

「あたし…」というコトバしか出てこなかった。

そうしてずっと涙をながしていた。

バトコは初めてホントのコトバを口にした。

 

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

142

チョコレイトのもらい方。

僕の席とあのこの席はちょうど教室の対角線上にあって、クラスの中で一番離れている。それでも僕は、1日に1度あのこに話しかけることにしている。ジョークが面白いわけでも、足がはやいわけでも、絵が上手いわけでもない僕は、きっと印象が薄いやつ、なんだとおもう。だから、あのこにとって“なんとなく気があう”ポジションをねらってきた。

2月14日の今日は、あちらこちらでなんだかフワフワした空気。女子同士でヒソヒソ&キャッキャ。隣の席のやつは「ちょっといい?」と、顔を赤らめた女子に廊下へ呼び出されていった。あのこをチラチラと観察する。大きな動きはなさそうだ。僕にチョコをくれなくても落ち込まない。他の誰かにチョコを渡すのだけはやめてほしい。かみさま、それだけはカンベンしてほしい。

すべての授業が終わり、何事もなく僕は校庭を歩き出す。タッタと足音が聞こえてきたと思ったら、あのこが僕に追いついてきて、僕のポケットに何やら入れた。そしてタッタとかけていった。ポケットから出てきたのは小さなメモ紙。“どんなチョコが好き?明日おしえて!”と書いてあった。僕はこころの中で飛び上がった。こころの中でガッツポーズをした。あのこのこういうセンスが大好きなんだ。

 

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

 

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電車は遅れておりますが

ふわっと映像が浮かんで、
こころが6.6グラム(当社比)軽くなる。
ワンシチュエーションでつづる、
シラスアキコのショートストーリー。

自分がジブンにしっくりくる感じの時は、気分がいい。
こころと身体が同じ歩幅で歩いているのがわかる。
いつもこんな感じで生きていきたい。

でも、かなりの確率でイライラと聞こえてくる
「お急ぎのところ、電車が遅れて申し訳ございません」。

そんな時は“ここじゃないどこか”に、
ジブンをリリースしてしまおう。
きっと気持ちの針が、真ん中くらいに戻ってくるから。

シラスアキコ Akiko Shirasu
文筆家、コピーライター Writer, Copywriter

広告代理店でコピーライターとしてのキャリアを積んだ後、クリエイティブユニット「color/カラー」を結成。プロダクトデザインの企画、広告のコピーライティング、Webムービーの脚本など、幅広く活動。著書に「レモンエアライン」がある。東京在住。

color / www.color-81.com
レモンエアライン / lemonairline.com
contact / akiko@color-81.com

◎なぜショートストーリーなのか
日常のワンシチュエーションを切り抜く。そこには感覚的なうま味が潜んでいる。うま味の粒をひとつひとつ拾い上げ文章化すると、不思議な化学反応が生まれる。新たな魅力が浮き上がってくる。それらをたった数行のショートストーリーでおさめることに、私は夢中になる。

イラストレーション
山口洋佑 / yosukeyamaguchi423.tumblr.com