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ミニスカートメソッド。

まっすぐに地面に向かった脚が、さっそうと歩き出す。8ビートに乗って、ソフトクリームを舐めて、厚めの前髪をスパッと切って。ニュースキャスターの言葉なんて、右から左。“大好き”の確信をギュッとつかんで、風に吹かれてもっと先まで。ミニスカートの脚は、媚(こび)も不安も1ミリも知らない。

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

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告白前夜。


焼き上がりまであと何分?あなたに恋焦がれてもう何年?静まり返った真夜中に、微糖なクッキーを焼いています。ずっと甘さのバランスをはかり過ぎて、あなたの前では必要以上にクールな振る舞いをしてきたね。でも、ここらで手を打ちましょう。傷つく覚悟はできている。これ以上焼き続けてしまったら、私の恋心は灰になってしまうから。

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

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ハッピーのしっぽ。

ちらりと、見えた、気がする。いいことおこりそうな、ハッピーのしっぽ。つかまえにいく?それとも、そっとまってる?どっちも正解。インスピレーションにおまかせしよう。(でもね)ハッピーのしっぽは気まぐれだから、無理やり引っぱることはやめておこう。ほら!ふわふわで美しいハッピーのしっぽ、また見えた!

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

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食堂車の揺らぎ。

糊のきいた白いテーブルクロスの上でメニューを熟読した結果、オムライスに決定!と(空腹の)腹を決めた瞬間、列車は急カーブ。グラリと身体が傾く。グリーンのガラス瓶に刺さった一輪の黄色いバラも、グラリ。やっぱりエビフライもいいな、と決心までが傾く。列車の中でサクサクと咀嚼する陽気なエビフライは、旅のテンションまで上げてくれるに違いない。いや、それとも最初にピンときたチキンカレーに戻るべきか。スパイシーな辛味と風味で、旅の五感を冴えざえと震わせたかったのだった。隣のテーブルのご婦人に運ばれたてきたのは、ハムサンドとカフェオレ。銀の盆に盛られたハムサンドからは艶々とマヨネーズがはみだしているし、揚げたてとおもわれるフライドポテトは黄金色に輝いている。あぁ、自分はこんなにも優柔不断な性格だったのか。頬杖をついて窓の外に広がる青い湖に想いを馳せていると、突然真っ暗なトンネルに突入。ゴーーーッという鈍い音とともに、食堂車の白っぽい照明が一人旅の心細さを誘う。よし、トンネルから出るまでには決断するのだ。今、一番食べたいものは?!(さて、主人公は何を選んだのでしょうか)

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

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電車は遅れておりますが

ふわっと映像が浮かんで、
こころが6.6グラム(当社比)軽くなる。
ワンシチュエーションでつづる、
シラスアキコのショートストーリー。

自分がジブンにしっくりくる感じの時は、気分がいい。
こころと身体が同じ歩幅で歩いているのがわかる。
いつもこんな感じで生きていきたい。

でも、かなりの確率でイライラと聞こえてくる
「お急ぎのところ、電車が遅れて申し訳ございません」。

そんな時は“ここじゃないどこか”に、
ジブンをリリースしてしまおう。
きっと気持ちの針が、真ん中くらいに戻ってくるから。

シラスアキコ Akiko Shirasu
文筆家、コピーライター Writer, Copywriter

広告代理店でコピーライターとしてのキャリアを積んだ後、クリエイティブユニット「color/カラー」を結成。プロダクトデザインの企画、広告のコピーライティング、Webムービーの脚本など、幅広く活動。著書に「レモンエアライン」がある。東京在住。

color / www.color-81.com
レモンエアライン / lemonairline.com
contact / akiko@color-81.com

◎なぜショートストーリーなのか
日常のワンシチュエーションを切り抜く。そこには感覚的なうま味が潜んでいる。うま味の粒をひとつひとつ拾い上げ文章化すると、不思議な化学反応が生まれる。新たな魅力が浮き上がってくる。それらをたった数行のショートストーリーでおさめることに、私は夢中になる。

イラストレーション
山口洋佑 / yosukeyamaguchi423.tumblr.com