303

アイデアのつかみ方。

身体をやわやわにほぐしてください。あまいキャンディーを口の中に放りこんでください。「そうか!」とわざとらしく驚いてみてください。できるだけ変な踊りを鏡の前でしてみましょう。水道の水をジャーっと出して指先で感じてみる。ふーっ。あきらめたふりをしてみる。アイデア、今日はもう無理かと自分をつきなはしてみる、と!!!!!

 

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

302

テンポを変えてみる。

早足で歩いてみたら、リズムにのってイイこと起こりそうな気分になった。ゆっくり歩いてみたら、空がいつもより大きくて「大丈夫!」な気分になった。立ち止まってみたら、じぶんを見てるじぶんが見えた。(思ったよりたくましいじぶんがいた)テンポを変えてみるだけで、何びゃく通りもの世界が味わえる。

 

 

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

301

ときめきの点滴。

パンだけでは生きてゆけないから。水だけでは潤わないから。勉強だけでは超えられないから。常識だけでは魅力がないから。私たちはライブの1曲目から細胞を総立ちさせるし、何の役にもたたないクッキーの缶が捨てられない。夜に移行する夕陽の瞬間を見逃さないし、咲いたばかりの花の匂いを求めてしまう。一滴のときめきさえあれば、今日を生きのびる栄養になるから。

 

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

 

 

300

ヘビーな軽食。

サンドイッチでもつまめる店はないかしら。昼食を食べ損ねてしまった彼女は、何かを胃袋に入れておきたかった。風でめくれるスプリングコートの襟を直しながら、都会のビルの谷間を彷徨っている。小さなカウンターだけの店に目が留まる。白いエプロンをしたふくよかな女性が、長い食パンをナイフでカットしているのが見えた。透明なガラスのドアを押す。「サンドイッチと熱いコーヒーにしますか?」注文しようと思っていたそのものだったので、(もちろん)お願いします、と答える。出てきたのは、薄いパンで作られた理想的なキューリのサンドイッチだった。(秘め事のある彼女は、大きな口をあけて頬張る気分じゃなかったから)コーヒーをひとくち。酸味の強い彼女好みの熱いコーヒーだった。「あなたの内面、わかる気がしますわ」ふくよかな女性は彼女の目を見て言った。「あなたはこれから、長年つきあってきた恋人に別れを告げに行くのね」あまりにも図星だったため、彼女は言葉が出てこない。「あなたは2ヶ月後、必ず後悔する」大通りを走るサイレンの音が、路地裏のこの店にまで伝わってきた。「どうしてわかるんですか?」つい挑戦的な口調になる。ふくよかな女性は、皿に盛られたサンドイッチに指をさして言った。「あなたの新しい恋人は大嘘つきよ。この薄いパンのようにね。今は中身を隠してるけど」彼女は2個めのサンドイッチから指を離した。確かに新しい恋人は、ここ1週間くらい上手く連絡がとれない。何か嫌な予感もしていた。それでも新しい恋人のミステリアスな部分に、どうしても惹かれていく自分がいる。ふくよかな女性はカウンターから姿を消していた。窓の外ではビル風が大きく吹いている。彼女の胃袋はもうこれ以上、サンドイッチを受けつけなかった。

 

*ついに300話まできました!!ふらりとこの場所に立ち寄ってくださるあなたに、感謝!!!電車は遅れておりますが、ガタンゴトンとこれからも続けていきます。いつもありがとうございます。

シラスアキコ

 

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

 

 

 

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電車は遅れておりますが

ふわっと映像が浮かんで、
こころが6.6グラム(当社比)軽くなる。
ワンシチュエーションでつづる、
シラスアキコのショートストーリー。

自分がジブンにしっくりくる感じの時は、気分がいい。
こころと身体が同じ歩幅で歩いているのがわかる。
いつもこんな感じで生きていきたい。

でも、かなりの確率でイライラと聞こえてくる
「お急ぎのところ、電車が遅れて申し訳ございません」。

そんな時は“ここじゃないどこか”に、
ジブンをリリースしてしまおう。
きっと気持ちの針が、真ん中くらいに戻ってくるから。

シラスアキコ Akiko Shirasu
文筆家、コピーライター Writer, Copywriter

広告代理店でコピーライターとしてのキャリアを積んだ後、クリエイティブユニット「color/カラー」を結成。プロダクトデザインの企画、広告のコピーライティング、Webムービーの脚本など、幅広く活動。著書に「レモンエアライン」がある。東京在住。

color / www.color-81.com
レモンエアライン / lemonairline.com
contact / akiko@color-81.com

◎なぜショートストーリーなのか
日常のワンシチュエーションを切り抜く。そこには感覚的なうま味が潜んでいる。うま味の粒をひとつひとつ拾い上げ文章化すると、不思議な化学反応が生まれる。新たな魅力が浮き上がってくる。それらをたった数行のショートストーリーでおさめることに、私は夢中になる。

イラストレーション
山口洋佑 / yosukeyamaguchi423.tumblr.com