414

空に放り投げる。

そのモヤモヤは何色。グレイ。黒。何色だっていい。おにぎりみたいにギュッギュッと手のひらで丸めるんだ。モヤモヤをひとつ残らず丸めるんだ。(けっこう重さがあるね)そうして窓を開けて大きな空にポーーーンと投げる。高く高く飛んでいく。雲の中に消えていく。ふーっ。軽くなったね。すっからかんになったね。もう無傷のあなたに元どおり。

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

413

ひらめきは。

ひらめきは、きらめき。きらめきは、ひだりきき。ひだりききは、るみこせんぱい。るみこせんぱいは、ばすけのえーす。ばすけのえーすは、れもんのさとうづけ。れもんのさとうづけは、すっぱいかお。すっぱいかおは、ひらめいたときのかお。

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

412

ねこの下駄の音。

(太陽さんの活躍で、地面が熱くなっています。素足で歩くとヒリヒリしてしまうので、外出の際は下駄を履きましょう)ねこ公民館には張り紙がはられました。ねこたちはお祭りのときにしか履かない下駄を、道具箱の中から引っ張り出しました。カニャン、コロン、カニャン、コロン。路地裏ではねこたちの下駄の音が響いています。「首を掻きたいときは、少し面倒だね」「後ろ足の下駄をいったん脱いでから、首を掻かないとだね」なんて会話もうまれます。すると、シャラン、シャカン、シャラン、シャカンという音が聞こえてきます。ん?なんの音?隣のお兄さんのリュックに入っている、水筒の中の氷の音だったのです。ねこたちがカニャン、コロンと歩くたび、お兄さんのシャラン、シャカンが鳴りました。ふたつの音があわさって、とても涼しい音楽になりました。

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

411

ブルーベリーブルース。

生きていることの嬉しさと哀しさがごちゃ混ぜになって身体を突き抜けそうになったので、とりあえずアパートを飛び出した。じっとしてはいられなかった。走る、走る、走る。初夏の夜は湿った土と草の匂い。ずいぶん走った。とうとう足が止まってしまう。自分の吐く息と心臓の音。半分の月がぼんやりと浮かんでいる。ブロック塀にブルーベリージャムがぶち撒かれている。テラテラとしたブルーベリーが月夜に照らされている。(僕のかわりに)誰かの衝動がそうさせたのか。河原の方から、サックスの音色が風に乗って流れてくる。ブルーベリーとブルースが混ざりあって、僕の一番奥の方にノックした。

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

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電車は遅れておりますが

ふわっと映像が浮かんで、
こころが6.6グラム(当社比)軽くなる。
ワンシチュエーションでつづる、
シラスアキコのショートストーリー。

自分がジブンにしっくりくる感じの時は、気分がいい。
こころと身体が同じ歩幅で歩いているのがわかる。
いつもこんな感じで生きていきたい。

でも、かなりの確率でイライラと聞こえてくる
「お急ぎのところ、電車が遅れて申し訳ございません」。

そんな時は“ここじゃないどこか”に、
ジブンをリリースしてしまおう。
きっと気持ちの針が、真ん中くらいに戻ってくるから。

シラスアキコ Akiko Shirasu
文筆家、コピーライター Writer, Copywriter

広告代理店でコピーライターとしてのキャリアを積んだ後、クリエイティブユニット「color/カラー」を結成。プロダクトデザインの企画、広告のコピーライティング、Webムービーの脚本など、幅広く活動。著書に「レモンエアライン」がある。東京在住。

color / www.color-81.com
レモンエアライン / lemonairline.com
contact / akiko@color-81.com

◎なぜショートストーリーなのか
日常のワンシチュエーションを切り抜く。そこには感覚的なうま味が潜んでいる。うま味の粒をひとつひとつ拾い上げ文章化すると、不思議な化学反応が生まれる。新たな魅力が浮き上がってくる。それらをたった数行のショートストーリーでおさめることに、私は夢中になる。

イラストレーション
山口洋佑 / yosukeyamaguchi423.tumblr.com