誰かの花束。
頬杖をついてカフェで、ぼー。アイスコーヒーをストローで、くるくる。浮かんだ氷が鳴いている、ちろちろ。こころの中には、ずっと白い綿がつまったまま。私はいくつもの季節を、傍観者のように見送ってしまった。パッとシアワセになりたいのに。スカッと晴れた気分になりたいのに。でも、わかっている。じぶんがじぶんを動かしていないから、だ。やりたいことに言い訳をつけて、一歩を前に出さないから、だ。顔を上げて、通りに目をやる。人の波を、すいすいとすり抜けていく男性がいた。両手には大きな花束を抱えて。(花束は白いせつないかすみ草だけでできていた)一瞬、時間が止まった。知らない誰かが、知らない誰かに渡す花束の流れ弾が、私の中に入り込んだ。こころの白い綿をやさしく突き抜けた。しゅーっと風が通った。肚の一番底の方から、あたらしいちからが湧き上がってくるのを感じた。理由なんてなかった。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。