スープの素はきみのことば。
あのときは笑い転げたね。
ばかみたいなことばっかりしていたね。
何時間もしゃべったねあきもせずに。
あのときは焦ったね。
発車したバスを追いかけたね。
止まってくれるはずないのにね。
あのときは泣いたよね。
ドーナツ食べ続けながら泣いたよね。
何個も食べ続けたよね。
あのときのきみのことば、
何回も思い出しては、にんまりしてしまう。
今夜のスープはきっとやさしい味になってる。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。
あのときは笑い転げたね。
ばかみたいなことばっかりしていたね。
何時間もしゃべったねあきもせずに。
あのときは焦ったね。
発車したバスを追いかけたね。
止まってくれるはずないのにね。
あのときは泣いたよね。
ドーナツ食べ続けながら泣いたよね。
何個も食べ続けたよね。
あのときのきみのことば、
何回も思い出しては、にんまりしてしまう。
今夜のスープはきっとやさしい味になってる。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。
ちぎれながら移動していく雲やら、
赤ちゃんのちいさな爪やら、
丸まったキャベツやら、
ふわりと広がるスプリングコートやら、
錆びついた自転車やら、
バレエ少女のお団子ヘアやら、
プリンの上で輝くカラメルやら、
静かに歌う白い海やら、
この世界に生きているすべてに、
目をカメラにして、
まばたきのシャッターをバシャバシャきる。
こころのレンズをクリアにして、
気持ちの出口を開放すると、
“好き”の焦点はビシッとあう。
隠れたヒントにピントをあてる、
目のカメラの性能はものすごい。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。
荷物はすべて運び終わったものの、
部屋の中にはベッドくらいしか陣取っていない。
冷蔵庫も食器もない。(マグカップだけは持ってきた)
彼は本気で気に入ったもの以外、置かないことに決めていた。
そんな生活にずっと憧れていた。
自分だけの居場所。自分だけの世界。
彼は部屋の中を歩き回る。
いつしかスキップになっていることに気づく。
フローリングにすれる靴下の感触が、実家を思い出させる。
彼は靴下を脱ぎ捨て、裸足になった。
これでいい。ちょっと不良な男は家で靴下など履かないのだ。
冷んやりした窓に顔を近づけてみる。外はほとんど深夜だった。
そこに映った自分はとても痩せていて、黒目がぬれっと輝いていた。
ラジオから突然、アナーキー・イン・ザ・U.K.が流れてきた。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。
深爪してしまった指先で、こころのカーテンをそっとあける。
朝はふんわりとできあがっていた。地球は正常に運転しているらしかった。
「おはよう」と言ってみた。「おはよう」と跳ね返してきた。
じぶんに風を入れてみた。身体じゅうを駆けめぐって出ていった。
青空を吸い込んでみた。すべての細胞が目を閉じて味わっている。
これまでのじぶんの常識を、消去。
こころの空きスペースはたっぷりある。
今日わたしはデビューした。
*おかげさまで「電車は遅れておりますが」は、今日で100回目のストーリーになりました。
日常のなかのはみだした数分間、一緒に旅をしていただきありがとうございます!
これからも、ここじゃないどこかに、ひょいとトリップ。
出張先のミラノより。
シラスアキコ
「電車はおくれておりますが」は毎週火曜日に更新しています。
冷えて固くなったフレンチフライドポテトを、ポッキーの要領で細かく口の中に進めながら、知らないジャズの知らないトランペットを聴きながら、(いや聴いてない気配を感じてるだけ)ぬるいビールを“ぬるいなー”としぶしぶ喉に運ぶのが好き。
このパンフレットをお配りしています、と何かの説明をしてくれるお姉さんのパンフレットの表紙が、蛍光灯の光でテラテラと輝いて、誰の手垢もついてなくて、とても薄くて、きっとつまんないイラストなんかが満載の、ただのパンフレットが異常に魅力的に見えて好き。
眼科に行くと、こちらに座ってくださいと言われ、双眼鏡のような機械の前に座ると、この中を覗いてくださいと言われ、素直にその中を覗くと、荒野が広がり、真っ直ぐな一本道が果てしなく続き、地平線の先にはカラフルな気球が浮かんでいて、あぁこのままずっと見ていたい!と願ってしまうほどこの風景が好き。
*「電車は遅れておりますが」 は毎週火曜日に更新しています。




ふわっと映像が浮かんで、
こころが6.6グラム(当社比)軽くなる。
ワンシチュエーションでつづる、
シラスアキコのショートストーリー。
自分がジブンにしっくりくる感じの時は、気分がいい。
こころと身体が同じ歩幅で歩いているのがわかる。
いつもこんな感じで生きていきたい。
でも、かなりの確率でイライラと聞こえてくる
「お急ぎのところ、電車が遅れて申し訳ございません」。
そんな時は“ここじゃないどこか”に、
ジブンをリリースしてしまおう。
きっと気持ちの針が、真ん中くらいに戻ってくるから。

広告代理店でコピーライターとしてのキャリアを積んだ後、クリエイティブユニット「color/カラー」を結成。プロダクトデザインの企画、広告のコピーライティング、Webムービーの脚本など、幅広く活動。著書に「レモンエアライン」がある。東京在住。
color / www.color-81.com
レモンエアライン / lemonairline.com
contact / akiko@color-81.com
◎なぜショートストーリーなのか
日常のワンシチュエーションを切り抜く。そこには感覚的なうま味が潜んでいる。うま味の粒をひとつひとつ拾い上げ文章化すると、不思議な化学反応が生まれる。新たな魅力が浮き上がってくる。それらをたった数行のショートストーリーでおさめることに、私は夢中になる。
イラストレーション
山口洋佑 / yosukeyamaguchi423.tumblr.com