348

気分の温度計。

無理やり気分を上げようとすると、ますます下降線をたどるし。放っておいたら、下がったまま動かない。どんどん冷たく固くなっていく。いよいよ「下がったままでいいや」ってひらきなおると、何かがほどける。窓を開けたくなる。空を見たくなる。深呼吸したくなる。気分の温度が少しだけ上がった、気がする。

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

347

赤ちゃんとネコはアイドル説。

赤ちゃんもネコも、身体がやわらかい。だから、つまずいても怪我をしない。赤ちゃんもネコも、頭の中がやわらかい。だから、明日の心配なんてしない。赤ちゃんもネコも、手のひらがやわらかい。だから、すぐに握手を求められる。赤ちゃんもネコも、遠くをじいーっと見つめてる。だから、神秘的で惹かれてしまう。

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

346

しあわせのストック。

こころの中がからっぽになって、ヒューっと風が吹き抜けていく。なんにも持っていないなぁ、確かなものがひとつもないなぁと、かなしくなったら。こころの奥にある、あの箱をあけてみよう。むかし言われた、うれしかったコトバ。大事にしてくれた、もういない人の笑顔。でてくるでてくる、しあわせのストック。

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

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バレンタイントリップ。

チョコレートの海でおぼれそうになったKは、やっとの思いで岩までたどり着いた。しかし、チョコレートの波は次々におしよせてくる。モテすぎるKは「好きです」の甘ったるい告白に疲れ果てて、もうこれ以上泳げない。あぁもうだめだ…。と、その時、大きな船が近づいてきた。ビターチョコレートでできた黒い船だった。「乗りな」クールビューティーな彼女は知らないひとだったけれど、Kは藁をもつかむ気持ちで乗り込む。船は風をきって大空に進む。クールビューティーの横顔はまぶしかった。ふたりは同じ方向を向いていた。Kはやっと居場所を見つけた。このままどこまでも行ける気がした。二羽のカモメは新しいカップルの誕生を祝うように、じゃれあって歌いながら飛んでいく。

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

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電車は遅れておりますが

ふわっと映像が浮かんで、
こころが6.6グラム(当社比)軽くなる。
ワンシチュエーションでつづる、
シラスアキコのショートストーリー。

自分がジブンにしっくりくる感じの時は、気分がいい。
こころと身体が同じ歩幅で歩いているのがわかる。
いつもこんな感じで生きていきたい。

でも、かなりの確率でイライラと聞こえてくる
「お急ぎのところ、電車が遅れて申し訳ございません」。

そんな時は“ここじゃないどこか”に、
ジブンをリリースしてしまおう。
きっと気持ちの針が、真ん中くらいに戻ってくるから。

シラスアキコ Akiko Shirasu
文筆家、コピーライター Writer, Copywriter

広告代理店でコピーライターとしてのキャリアを積んだ後、クリエイティブユニット「color/カラー」を結成。プロダクトデザインの企画、広告のコピーライティング、Webムービーの脚本など、幅広く活動。著書に「レモンエアライン」がある。東京在住。

color / www.color-81.com
レモンエアライン / lemonairline.com
contact / akiko@color-81.com

◎なぜショートストーリーなのか
日常のワンシチュエーションを切り抜く。そこには感覚的なうま味が潜んでいる。うま味の粒をひとつひとつ拾い上げ文章化すると、不思議な化学反応が生まれる。新たな魅力が浮き上がってくる。それらをたった数行のショートストーリーでおさめることに、私は夢中になる。

イラストレーション
山口洋佑 / yosukeyamaguchi423.tumblr.com