51

ミルクティーンエイジャー。

ハンバーガーショップに彼女と来たのは2回目だった。なぜ彼女が自分に“なついて”くるのか、彼にとって謎だった。クラスで一番可愛いけれど、クラスで一番とっつきにくい彼女は、男子のあいだでアイスガール(氷の女のコ)と呼ばれていた。

彼女はフィッシュバーガーにコーラ、ポテトは彼にもわけてくれるらしい。彼はダブルチーズバーガーとコーラをオーダーした。席に着くと、彼はだるそうにコーラをストローで吸い込む。この瞬間が恐怖だった。シュワシュワと喉の内側が焼け野原になっていく。

彼は炭酸が苦手だった。本当はあまいミルクティーが好きだった。黒目の大きな彼女は彼をじっと見た。(この目つきにやられる)もしかして、コーラを無理して飲んでいるのがバレたのでは?と、彼の手のひらは汗ばんでいる。

50

わたしは成熟を知らない。

自己中心的な脳みそがエンプティになるまで考え抜いた結果、わたしは彼の人生をめちゃくちゃにするほど愛していることを告げるため、原宿をすっぴんで歩いている。妙な歌の宣伝カー、売れ残った服、外国人がキャリーバックを引きずる音、透き通ったりんご飴の赤。目の中のカメラでバシャバシャ撮りながら、1秒でもはやく彼のアパートのドアをあけることをだけを願っている。

49

甘えてくださいと、月が言っている。

彼女はわざと先回りしたり、遠回りしたりして、人の気持ちと“いい距離感”をとることが得意だったゆえに、自分の気持ちを後回しにしてしまうクセがあった。「私は大丈夫」って、ずっと自分に我慢をさせていた。そして満員電車からもみくちゃになりながらホームに降りた瞬間に、それは起きた。あれ?目から飛び出した水は涙?一瞬、自分でも分からないくらいだった。地上に出ると、いつもの街がにじんでみえた。「そろそろ甘えてください」と、月がやさしく彼女を照らしていることに、彼女本人はまだ気づいていない。

48

深夜のエアポート・ポートレイト。

空港にはほとんどひと気がなかった。さっきから最終便の案内が、繰り返し聞こえてくる。軽食を食べられるレストランや売店は、どこもシャッターが降りていた。(彼は夕食を食べてこなかったことを少し後悔した)真っ赤な制服を着て、同じ髪形をしたキャビンアテンダントたちが早足で横切っていく。何語かはわからなかったが「今夜何食べる?」と、言い合っている気がした。彼は早く飛行機に乗り込んで、さっさと離陸したいとおもった。異国でゼロから始める自分と、この空港のゆったりしたムードがとてもチグハグな気がしたからだ。足元のコンバースはおろしたてだった。彼は急に気恥ずかしくなった。さっさと汚したいとおもった。

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電車は遅れておりますが

ふわっと映像が浮かんで、
こころが6.6グラム(当社比)軽くなる。
ワンシチュエーションでつづる、
シラスアキコのショートストーリー。

自分がジブンにしっくりくる感じの時は、気分がいい。
こころと身体が同じ歩幅で歩いているのがわかる。
いつもこんな感じで生きていきたい。

でも、かなりの確率でイライラと聞こえてくる
「お急ぎのところ、電車が遅れて申し訳ございません」。

そんな時は“ここじゃないどこか”に、
ジブンをリリースしてしまおう。
きっと気持ちの針が、真ん中くらいに戻ってくるから。

シラスアキコ Akiko Shirasu
文筆家、コピーライター Writer, Copywriter

広告代理店でコピーライターとしてのキャリアを積んだ後、クリエイティブユニット「color/カラー」を結成。プロダクトデザインの企画、広告のコピーライティング、Webムービーの脚本など、幅広く活動。著書に「レモンエアライン」がある。東京在住。

color / www.color-81.com
レモンエアライン / lemonairline.com
contact / akiko@color-81.com

◎なぜショートストーリーなのか
日常のワンシチュエーションを切り抜く。そこには感覚的なうま味が潜んでいる。うま味の粒をひとつひとつ拾い上げ文章化すると、不思議な化学反応が生まれる。新たな魅力が浮き上がってくる。それらをたった数行のショートストーリーでおさめることに、私は夢中になる。

イラストレーション
山口洋佑 / yosukeyamaguchi423.tumblr.com