
ねこの哲学。
ねこが歩いてると、いぬが「どこ行くんだい?」と声をかけた。ねこは「ただ歩いてるだけだよ」と答えた。「それは散歩というんだよ」といぬ。「いや、散歩じゃない。ただ歩く、ということに集中してるんだ」とねこ。そして付け加えた。「歩く、ということをキミは噛み締めたことがあるかい?」「・・・」いぬは帰ってから哲学書をひらかねばと思った。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。
ねこが歩いてると、いぬが「どこ行くんだい?」と声をかけた。ねこは「ただ歩いてるだけだよ」と答えた。「それは散歩というんだよ」といぬ。「いや、散歩じゃない。ただ歩く、ということに集中してるんだ」とねこ。そして付け加えた。「歩く、ということをキミは噛み締めたことがあるかい?」「・・・」いぬは帰ってから哲学書をひらかねばと思った。
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ぼくは思いっきり地球を蹴る。天と地がひっくり返る風景が見たくて、ひとりで逆上がりに挑戦している。足はてっぺんまで上がるのに、どうしてもグルリンとまわることができない。もういっかい。もういっかい。北風が吹くたびに、大きな木々がいっせいに揺れる。くやしい。くやしい。誰もいない公園は、涙を笑う者もいない。かじかんだ手のひらは、ツーンと鉄の匂いがした。
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うさぎにしようかしら。オットセイもかわいいよね。にぎやかな声が響くここは、雲をこしらえるアトリエです。雲のエプロンをした雲職人たちは、せっせと雲の生き物を創作ちゅう。さぁ飛ばしましょう!ふわんふわんふわ〜ん♩ところで今日の大空劇場は見てくれましたか。怪獣とネコの対決でしたよね。(ネコが勝ちました)彼女たちの作品ですよ。
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きれいな水をごくごく飲んだ。からだの中がよろこんでる。大きな夜空を吸い込んだ。一番星が胸の真ん中でまばたきしてる。赤い金魚をじっと見てた。目をとじてもひらひらと泳いでた。口笛を吹いた。知らないメロディを発明した。右足を出した。ついでに左足も出した。ぐんぐん進んで散歩になった。悲しいからあくびをするふりをした。本物のあくびになった。なんだかとってもだいじょうぶ。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。
会社を辞める決意が固まる瞬間は/いつも同僚とのランチの最中だった/これまでの2社も昼ごはんを食べながら決心したし/今回もそうなった/辞めたい、辞めたい、辞めたい、という成分でできた水が/コップの中にじわじわと溜まっていって/コップからあふれる瞬間がきまってランチの時間なのだった/別に同僚が悪いわけじゃない/このまま無限に続いていく牧歌的ムードがじわじわと/スライムのような柔らかさで首を絞めていくような/カニクリームコロッケの隣に添えられた/水分が抜けたトマトの一切れを箸でつまみながら/じぶんはどこへ逃げればいいのかわからないけど/とにかくここを抜け出すことからはじめよう/財布を持った右手がじわりと汗ばんでいる/じぶんの気持ちは自分で守る/上司のデスクに向かって歩く
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。
ベッドの中で黄色いクッキーをかじった瞬間、電話が鳴った。女友達の“もしもし”の声で内容は理解した。泣いた後の鼻声は、どこかあっけらかんと聞こえた。「まさか満月が理由で別れたわけじゃないよね?」私は2枚目のクッキーに手を伸ばしながら言った。「さぁどうかな」と彼女。大きな月に照らされながら、ひとりで歩く彼女を想像した。風の音も伝わってくる。冷たい空気に乗ったラジオのように。
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こころの中のずっと奥のもっと奥には、なにがある。じぶんでも知らない“感じ”が、ドゥクドゥクと脈打ってる。かなしいとか、うれしいとか、はっきりしたものではない。いろんな色が混ざって、何色とも呼べない。その“感じ”がなんなのか、もぐってみたくなった。もう気を紛らわすことなしない。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。
“そろそろ喧嘩をやめてしまってもいいかな”と感じる瞬間も、ふたり同時だった。お互いをののしるにもパワーがいる。恋人たちの空腹メーターは底をつきそうだった。男が「とりあえず食べる?」と、テーブルの上のピザに目を落とす。熱々だったはずのマルゲリータは、赤と青のパッケージの中で冷たく固くなっていた。女が「温め直せばいいんじゃない?」とつぶやいた。オレンジ色の熱に染まったオーブンの中で、マルゲリータのチーズはプクプクと踊りだす。チン!という合図が鳴った。恋人たちはアチチと大騒ぎしながらピザを頬張る。垂れそうなチーズを必死で口の中に入れる、ヘンテコな表情の相手を見ながら。
*みなさま、メリークリスマス!!!あたたかな夜を⭐︎「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。
ふかふかのセーター買って、タンパク質OK。ルビー色のクラッチバッグ買って、ビタミンOK。8cmのハーフブーツ買って、カロテンOK。淡水パールのブレスレット買って、ミネラルOK。全身に栄養がいき届いたあとは、熱々のミニッツステーキと赤ワインでハッピー質を摂取♡
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。
寒い朝でも起きたくなるように、サクッサクのクロワッサンを用意しておく。自信を隠し持ってデイトへ行けるように、エナメルのヒールをピッカピカに磨いておく。きっと休日にナポリタンが食べたくなるから、トマトケチャップの大瓶を買っておく。今夜はとても冷えるから、湯たんぽをそっと仕込んでおく。いい夢を見たいから、ニッコリと口角を上げて目をとじてみる。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。
ふわっと映像が浮かんで、
こころが6.6グラム(当社比)軽くなる。
ワンシチュエーションでつづる、
シラスアキコのショートストーリー。
自分がジブンにしっくりくる感じの時は、気分がいい。
こころと身体が同じ歩幅で歩いているのがわかる。
いつもこんな感じで生きていきたい。
でも、かなりの確率でイライラと聞こえてくる
「お急ぎのところ、電車が遅れて申し訳ございません」。
そんな時は“ここじゃないどこか”に、
ジブンをリリースしてしまおう。
きっと気持ちの針が、真ん中くらいに戻ってくるから。
広告代理店でコピーライターとしてのキャリアを積んだ後、クリエイティブユニット「color/カラー」を結成。プロダクトデザインの企画、広告のコピーライティング、Webムービーの脚本など、幅広く活動。著書に「レモンエアライン」がある。東京在住。
color / www.color-81.com
レモンエアライン / lemonairline.com
contact / akiko@color-81.com
◎なぜショートストーリーなのか
日常のワンシチュエーションを切り抜く。そこには感覚的なうま味が潜んでいる。うま味の粒をひとつひとつ拾い上げ文章化すると、不思議な化学反応が生まれる。新たな魅力が浮き上がってくる。それらをたった数行のショートストーリーでおさめることに、私は夢中になる。
イラストレーション
山口洋佑 / yosukeyamaguchi423.tumblr.com