379

いい色のカフェオレ。

影の部分と、ヒカリの部分が、いい具合に混ざり合えば。ほら、奥行きのある魅力的な雰囲気ができあがる。あなたの暗さも明るさも、黒い部分も白い部分も、いじわるさも優しさも、ウラもオモテも、スプーンでくるくるかき混ぜて。あなた色したカフェオレ、今日もフーフーいいながら(たまに舌をやけどしながら)味わうとしましょうか。

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

378

ネコのテーブルマナー。

おねえさんが缶詰を触った瞬間にダッシュで駆け寄りましょう/足首から太もものあたりまで爪を立ててよじ登り、空腹であることをアピールしましょう/早く!大盛りでお願い!と、言葉のアピールも忘れずに/皿に盛られたら口から直接いただきましょう/ゴハンが散らばっても気にしないこと/むしろおねえさんは「まぁまぁ」と目を細めて喜びます/食べるのが遅いきょうだいがいても、横取りしてはいけません/食後の身だしなみは念入りに/次におねえさんの食事が始まるまで待機/膝の上に乗って”焼き鮭”を狙いましょう/ダメ!と言われてもしつこく/ビールを取りにいく時がチャンス/焼き鮭を齧って逃げましょう

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

377

17歳の1週間。

月曜日に告白した。火曜日に返事をもらった。水曜日にデイトの下見をした。木曜日に髪を切った。金曜日にデイトに誘った。土曜日に喫茶店→プラネタリウム→プラモデル屋のデイトをした。日曜日に電話でフラれた。あー水曜日に時間を戻してくれ!姉貴に相談したら(デイトコースは関係ない!)と言われた。そんな僕の7デイズ。

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376

約束をしない約束。         

私は約束を破ったことがない。なぜなら私は誰とも約束をしないから。自分への約束も守れない私が、自分以外の人と約束をするなんて、そんな図々しさを私は持ち合わせていない。明日の気分なんて、今日はわからない。1秒後、1ヶ月後、1年後なんてわかるはずがない。私の気持ちはいつも移ろい続けている。オーロラのように変わり続けている。ほら、今だってパンケーキをオーダーするつもりが、おもわずハムサンドって言っている。

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

375

夏の切符。

まぶしい真夏の恋をしていた時よりも、夏の後ろ姿をぼんやりと見つめながら、グラスの底に残った氷をストローでいじる女友達は綺麗になったとおもった。この夏、すべてが始まって、すべてが終わった。たっぷり傷ついたけど、たっぷり楽しかったよ、と。彼女の痛みはどこを通過して、どこへ消えていくのだろう。夏の切符は小さく破いて、捨てた。静かなため息と一緒に、次の季節にいく。

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

374

シエスタムービー。

あなたが昼寝をしているあいだに、世界じゅうの問題が解決していく!***欠品していた乳液は、3ダースもドラッグストアに届く。揚げ過ぎたコロッケは、焦げつき愛好者が買っていく。デイトの1時間前に、ストライプのワンピースがクリーニングから戻ってくる。バーのカウンターでは、酔っ払いの隣に酔っ払いが座る。売ったことを悔やんでいたアロハシャツと、古着屋で再び出会う。空腹で倒れそうな瞬間、友達がキャンディーをくれる。恋人と別れた次の日、一目惚れをしてしまう。昼寝から起きたら、世の中はくっきりすっきり。

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

373

シャンプー台から宇宙旅行。

ぐぅーっと背中が倒れ、ふわりとガーゼで視界が隠れたら、宇宙船は旅にでる。フローラルな香りに包まれながら、上へ上へと登っていく。日常の指紋は流れ落ち、凝り固まった思考は溶けていく。身体とこころがきりはなされ、自分の感覚だけがゆらゆらと星空とダンスをする。そして、たったひとつのこたえが見つかった。コノヨハ、ダイジョウブデ、デキテイル。

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372

まっさらな一球。

100回飴玉を渡すよりも、ひとこと「あのときはゴメン」とあやまりたい。100回こころで感謝するよりも、ひとこと「あのときはアリガトウ」とつたえたい。100回絵文字を送るよりも、ちょくせつムギュッと抱きしめたい。100回昔話するよりも、恥ずかしい未来の夢なんかを語り合いたい。むずかしい変化球もいいけれど、笑っちゃうほどストレートな一球はこころにクル。

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371

ネコさんはシアワセの天才。

せっかく入ったレストランは、調理場からシェフの怒鳴り声が響いてくる。これじゃ味なんてしない。オムライスの最後の一口を、無理矢理飲み込んで店を出る。あーあ、今すぐシアワセになりたかったのに。胸の奥に居座るストレス、どこで癒せばいいんだろう。ん?足元にはミルクティー色のネコさん。長いしっぽを絡めてくる。しゃがんでネコさんを撫でようとしたら(こっちだよ!)と、すっと前を歩いていく。ネコさんの後ろをついていくと、裏通りの小さな公園に着いた。ネコさんは木の下のベンチに飛び乗り、ゆっくりと身繕いをはじめた。私も隣に座る。ふーっ。ここは風の通り道だった。気持ちいい。木陰に守られた秘密のオアシス。水彩画の青空はどこまでも広がっている。ビージーエムは元気な蝉の声。世界はこんなにもおだやかだった。私、いろんなことに振り回されていたみたい。胸の奥のかたまりが、ゆっくり消えていくのを感じた。ネコさん、ありがと。今すぐシアワセになれました。

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

370

うれしいかんちがい。

カミナリ?とおもったら、花火だった/怒られる!とおもったら、出張の依頼だった/人だかりは火事?とおもったら、虹がかかってた/パンが落ちてる!とおもったら、ネコだった/夕方の6時?とおもったら、早朝の6時だった/フラれる!とおもったら、告白だった/シャーベットとおもったら、アイスクリームだった/地球かぁーとおもったら、火星だった◎

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

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電車は遅れておりますが

ふわっと映像が浮かんで、
こころが6.6グラム(当社比)軽くなる。
ワンシチュエーションでつづる、
シラスアキコのショートストーリー。

自分がジブンにしっくりくる感じの時は、気分がいい。
こころと身体が同じ歩幅で歩いているのがわかる。
いつもこんな感じで生きていきたい。

でも、かなりの確率でイライラと聞こえてくる
「お急ぎのところ、電車が遅れて申し訳ございません」。

そんな時は“ここじゃないどこか”に、
ジブンをリリースしてしまおう。
きっと気持ちの針が、真ん中くらいに戻ってくるから。

シラスアキコ Akiko Shirasu
文筆家、コピーライター Writer, Copywriter

広告代理店でコピーライターとしてのキャリアを積んだ後、クリエイティブユニット「color/カラー」を結成。プロダクトデザインの企画、広告のコピーライティング、Webムービーの脚本など、幅広く活動。著書に「レモンエアライン」がある。東京在住。

color / www.color-81.com
レモンエアライン / lemonairline.com
contact / akiko@color-81.com

◎なぜショートストーリーなのか
日常のワンシチュエーションを切り抜く。そこには感覚的なうま味が潜んでいる。うま味の粒をひとつひとつ拾い上げ文章化すると、不思議な化学反応が生まれる。新たな魅力が浮き上がってくる。それらをたった数行のショートストーリーでおさめることに、私は夢中になる。

イラストレーション
山口洋佑 / yosukeyamaguchi423.tumblr.com