265

ハワイアンドリーム。

「帰りにグァバジュース買ってきてぇー!」が、聞こえたかどうかもあやしい薄情な女友達3人は、ひどい日焼けで動けない私をホテルの部屋に置き去りにして、上機嫌でアラモアナセンターへ出かけていった。ハワイ2日目にしてなんという悲劇。火照りに耐えながら、ずっとベッドの上に横たわっている私。窓の外に広がる空と海が、青すぎてまぶしい。ふぅー。ちょうど寝そべっている目線の高さに、大きな波が生まれる。ひとりのサーファーが上手く乗りこなす。海のシーツにアイロンをかけているみたい。うとうとと、まぶたが重くなってくる。私はもう、ほとんど海と一体になっている。

 

 

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

 

 

264

こころのシミ抜き。

シミになった直後、無理やりゴシゴシやっちゃったでしょ。わかるよ、つらいから、一刻も早く消したいんだよね。最初は「・(点)」だったのが、逆に広がってしまったね。そっからは見て見ぬふりして、放っておいた。だからほら、シミがかたまっちゃった。でもね、もう大丈夫。あなた、このシミのこと、やさしい目で見てる。シミを受け入れてるんだ。シミは自然に消えていくよ。シミのあった場所が、いつか愛おしくおもえる日がくるから。

 

 

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

 

 

263

おちゃ、ときどき、しごと。

リスは今日も喫茶店にいます。チリンチリン。ドアベルが鳴って、ねこが入ってきました。「ホットミルクお願い。ぬるめでね。」と、ねこはオーダ。「あんたまたさぼってんの?」と、遠慮がないねこ。リスは「うぅーん」とYESでもNOでもない返事をします。リスの目の前には、くるみのキャラメルケーキとアイスコーヒー、そして書きかけの原稿が置いてあります。「あんた昨日からまったく原稿進んでないじゃないのー。」と、ねこはリスの原稿を覗きこみました。「さぼるためにしとごをしてるんだ。この時間が輝くんだ。」と、リスは言いました。ねこは目をとじて二度うなずきました。

 

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

262

バスタイムパラダイス。

かたまった気持ちがスルスルとほどけていった原因は、あたたかなお湯だった。はだかを包むお風呂。こころの芯からのび〜。あたまの中で走り回っていた悩みごとも、湯気と一緒にバイバイ。全身がいい茹で加減になったら、もう大丈夫。まっさらなジブン、出来上がり。

 

 

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

261

ポップコーンアワー。

テレビの前の紳士淑女のみなさま。お子さま、ねこさま、小鳥さま。「ポップコーンアワー」のお時間がやってまいりました。今夜はお待ちかねのドラキュラ映画『コウモリの羽休め』でございます。心臓に自信をお持ちの旦那さまに限って、悲鳴を上げてしまう可能性があります。窓とカーテンはきっちりとお閉めください。さぁ膝の上にポップコーンのご用意はできていますか。え?あなたは誰?あの今、生放送でありまして!羽交い締めなんて困ります!そ、その八重歯はもしかして、吸血鬼?ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーー!(テレビ画面にタイトルバックがあらわれる)

 

 

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

260

コトバの詰め合わせセット。

ピンポーンと小包が届いた。遠く離れた恋人からだった。ブルーの箱にメロン色のリボンがかけてある。ふたを開けると、コトバが次々に飛び出してくる。「くすっ」とか「うーん?」とか「えーと」という文字が、ふわふわと部屋の中を漂いだした。(何が言いたいの、笑っちゃう)キラキラと光る「あーあ会いたい」のコトバのあと、「スキ」「スキ」「スキ」が部屋いっぱいに舞いあがる。私はうっとりと彼のコトバを眺めている。すると大きな「ダイキライ」がポーンと。えっ???「…ノ、ハンタイ」がさらに大きく飛び出してきた(もう!)

 

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

259

ソーダ水まであとすこし。

ひまわりが咲いたから、迎えにいこう。冷たいソーダ水2瓶持って、駅までいこう。かのじょがホームに降りた瞬間、ジャンプして(ここだよ!)と手を振った。大げさに抱き合ったりしない。ニマニマするだけでお互い通じあえる。夏の夕暮れと雨上がりの匂いがまざりあった今日という日を、ずっと待ってた。重いスーツケースは僕が持って、冷たいソーダ水を1瓶渡して。「ビーサンで来たんだね」とかのじょはクスリと笑った。ソーダ水の泡がチクチクと喉を通り過ぎる。

 

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

258

玉ねぎワーク。

玉ねぎの皮ををむいて、むいて、むいていったら、

隠していた気持ちが透けてきた。

涙がぽろぽろと、言葉がぽつぽつと、こぼれてきた。

いつだってほんとのことは、いちばん奥にあるね。

 

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

 

*人生初!の展覧会、無事に幕を閉じることができました。

たくさんの方々に、言葉と紙に触れていただき嬉しかったです◎

ありがとうございました。

青山見本帖 ショウケース展示「Paper Trip〜読む紙見本〜」

https://www.takeo.co.jp/news/detail/003679.html

 

 

 

257

あの頃が目の前に。

「敗北」と書かれたTシャツを着ているアルミくんの家には玄関がない。いや本当はあるのだけど、アルミくんは一階のアパートの部屋の窓を玄関がわりにしている。ぴょんと窓から飛び降りて学校に行き、ガラガラと窓を開けて部屋の中に入る。アルミくんは、高校生なのに一人暮らしをしている。家族はいるのかなど聞いてみたかったけど、一緒にいると(そんなことはどうでもいい)という気分になった。クラスで一番目立っていたアルミくんと、クラスで一番無口な私。つきあってなんかいないし、親友ですらなかった私たち。ただ同じアーティストが好きで、西日のさす部屋でだまってレコードを聴いた。そんな時間が遠いあの頃になってしまった今朝、満員電車でようやく席に座れてほっとしていたら、目の前にアルミくんがたっていた。もちろん「敗北」のTシャツではなく、綺麗なスーツを着こなしていた。ヘッドホンで音楽を聴いているアルミくんに、声をかける勇気はなかった。ただ私が席をたつ時、アルミくんが聴いているのは、あのアーティストのあのアルバムだとわかった。うれしかった。

 

 

初の展覧会、5月6日が最終日です!(3日4日5日は閉館です〜♩)

竹尾・青山見本帖ショウケース展示「Paper Trip〜読む紙見本〜」。50種類の紙からインスピレーションを受けて、50篇のショートストーリーをつづりました。ふわふわと浮かぶ、さまざまな物語をのせた紙たちと、ペーパートリップしてみませんか。(チャーミングなおみやげもご用意してますー◎)

青山見本帖 ショウケース展示「Paper Trip〜読む紙見本〜」

https://www.takeo.co.jp/news/detail/003679.html

会期:2022年4月4日(月)〜5月6日(金)/定休日:土・日・祝日/会場:株式会社竹尾 青山見本帖/所在:東京都渋谷区渋谷4-2-5 プレイス青山1F /営業時間:10:00-18:00/入場料:無料/主催:株式会社竹尾/ショートストーリー:シラスアキコ(COLOR.)/アートディレクション&デザイン:COLOR.(http://www.color-81.com)/協力:株式会社一九堂印刷所

 

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

256

空が海で、雲が波。

水たまりをのぞいたら、海が映っていた。

え?上を向くと空しかないのに。

もう一度、水たまりをのぞいたら、

波がうねっている。やっぱり海だ。

こんどは水たまりの中に入ってみた。

バッシャーン。キラキラな水玉がわきあがった。

水たまりをのぞいたら、子どものじぶんが映っていた。

 

紙と旅にでかけませんか。初の展覧会です!

竹尾・青山見本帖ショウケース展示「Paper Trip〜読む紙見本〜」。50種類の紙からインスピレーションを受けて、50篇のショートストーリーをつづりました。ふわふわと浮かぶ、さまざまな物語をのせた紙たちと、ペーパートリップしてみませんか。(チャーミングなおみやげもご用意してますー◎)いつもお読みいただき、ありがとうございます。

青山見本帖 ショウケース展示「Paper Trip〜読む紙見本〜」

https://www.takeo.co.jp/news/detail/003679.html

会期:2022年4月4日(月)〜5月6日(金)/定休日:土・日・祝日/会場:株式会社竹尾 青山見本帖/所在:東京都渋谷区渋谷4-2-5 プレイス青山1F /営業時間:10:00-18:00/入場料:無料/主催:株式会社竹尾/ショートストーリー:シラスアキコ(COLOR.)/アートディレクション&デザイン:COLOR.(http://www.color-81.com)/協力:株式会社一九堂印刷所

 

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

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電車は遅れておりますが

ふわっと映像が浮かんで、
こころが6.6グラム(当社比)軽くなる。
ワンシチュエーションでつづる、
シラスアキコのショートストーリー。

自分がジブンにしっくりくる感じの時は、気分がいい。
こころと身体が同じ歩幅で歩いているのがわかる。
いつもこんな感じで生きていきたい。

でも、かなりの確率でイライラと聞こえてくる
「お急ぎのところ、電車が遅れて申し訳ございません」。

そんな時は“ここじゃないどこか”に、
ジブンをリリースしてしまおう。
きっと気持ちの針が、真ん中くらいに戻ってくるから。

シラスアキコ Akiko Shirasu
文筆家、コピーライター Writer, Copywriter

広告代理店でコピーライターとしてのキャリアを積んだ後、クリエイティブユニット「color/カラー」を結成。プロダクトデザインの企画、広告のコピーライティング、Webムービーの脚本など、幅広く活動。著書に「レモンエアライン」がある。東京在住。

color / www.color-81.com
レモンエアライン / lemonairline.com
contact / akiko@color-81.com

◎なぜショートストーリーなのか
日常のワンシチュエーションを切り抜く。そこには感覚的なうま味が潜んでいる。うま味の粒をひとつひとつ拾い上げ文章化すると、不思議な化学反応が生まれる。新たな魅力が浮き上がってくる。それらをたった数行のショートストーリーでおさめることに、私は夢中になる。

イラストレーション
山口洋佑 / yosukeyamaguchi423.tumblr.com