カクテルに太陽をひとさじ。
オレンジの夕陽に淡いピンクが滲んできた頃、彼女はギャングのスピリッツを抱えて黒いドアをあける。この店のアルコールをすべて飲み干してあげる!という具合に。
いけない飲み物くださいな、とバーテンダーに合図を送ると出てきたのは “ロングアイランド・アイスティ”。もちろん紅茶など一滴も入っていない。なにしろウオッカ、ラム、テキーラ、ジンといった、ありったけのスピリッツをごちゃ混ぜにして、甘いコーラで仕上げたタチの悪いカクテルだ。(口あたりが異常なほど良いから危険)
彼女は冷えたグラスを天井に近い窓にかざす。「昼間はすごい熱でさんざんイジメてくれてありがとう」と、こころの中でウインクする。今日最後の太陽は全面的に降参して、ロングアイランド・アイスティの中にとろりと溶けていった。乾杯。