こころのグラデーション。
夕暮れが夜に溶けこんでいく帰り道。なまあたたかい空気に、少しだけ秋が混じってる。彼女のトートバッグには、さっき買った1.4ミリのスパゲッティ。持ち帰った書類。なくなりそうな口紅。そして、ほぼ、からっぽのこころ。夏がおわりに近づくにつれて、彼の声も聞こえなくなっていった。グラデーションのように、だんだんと。無邪気に電話してみようか。元気?って。彼女はこころのなかで、何度も彼と会話をしてみる。でも、はずむような、たっぷりとヒカリを含んだ声はもうだせない。たった数週間で、彼女は別人になってしまった。夜に染まった空に、黄色い月をみつける。彼女はまだ、夏の階段の踊り場に立っている。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。