
ノールール。
私は海の水でできている。
私は毎日自分の中の海で自由に泳いでいる。
私は眠れなくても悲しくならない。
私の24時間なのだからどう使ってもよい。
私は年をとらない。
私は3歳であり100歳でもある。
私は汚れない。
私を汚すものはこの世に存在しない。
私はいつも扉をあけている。
私にはそして扉さえない。
私はどう転んでも不幸にならない。
私には不幸になる才能がない。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。
私は海の水でできている。
私は毎日自分の中の海で自由に泳いでいる。
私は眠れなくても悲しくならない。
私の24時間なのだからどう使ってもよい。
私は年をとらない。
私は3歳であり100歳でもある。
私は汚れない。
私を汚すものはこの世に存在しない。
私はいつも扉をあけている。
私にはそして扉さえない。
私はどう転んでも不幸にならない。
私には不幸になる才能がない。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。
背筋をしゃんと伸ばして、
あごをひいて、
口角を上げて、
右、左、右、左。
交互に足を前に出せば、
風がおきる。
前髪があそぶ。
口笛を吹いてみる。
曲じゃなくて気分のメロディ。
トンネルの中は真っ暗だけど、
ずっとむこうのちいさなヒカリ。
こころの目だとみえるんだ。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。
こころがざわざわorしゅんとした日には、こんなオムライスはいかが。まんまるフライパンをひょいと火にかけて、玉ねぎをあなたのモヤモヤが透き通るくらいまで炒めるの。あたたかいごはんを投入っ。くやしい気持ちを炎で燃やすの。真っ赤なケッチャップをこれでもかってほど、ぶちまける。だんだんごはん粒が合唱しだすの。おーい!元気かーい!って。お皿に盛ったら、そっと黄色いオムレツのおふとんをかぶせて。そしてあなたの名前をケチャップでつづって。(はずかしがっちゃだめ!)地球に生まれてきてくれたあなたを、盛大に祝福するひと皿の完成です。パチパチパチ。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。
好きな人ができたら、
おなかが空かなくなった。
音楽に敏感になった。
歩きながら考えるようになった。
洋服が足りなくなった。
髪の毛がやわらかくなった。
涙がにじむようになった。
ふわふわの小鳥にみとれるようになった。
細いヒールが欲しくなった。
ひとりごとをメモするようになった。
月を探すようになった。
バスタブの時間が長くなった。
街で人違いするようになった。
好きな人のことを考える時間を、
これまで何に使っていたのか思い出せなくなった。
好きな人ができたら、
絶望と希望を知った。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。
透明のコップに氷を3個入れる。
次に水を入れる。
氷はパチパチッとまばたきする。
透明のコップに水を入れる。
次に氷を3個入れる。
氷は静かに目を閉じてふわっと浮かぶ。
5個の氷がひとつにかたまっている。
水を入れるとキッと声をあげて、
氷同士の団結力がさらに高まる。
氷をストローでかき混ぜると、
チロチロと切ない声でうたう。
氷をシンクに置きっ放しにしておくと、
ツーっと動いて水になって魂を売る。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。
殿方とのデイトではいつでも涼やかな表情でいたいもの。白いハンカチーフを二枚ほどハンドバッグにしのばせておき、お化粧が崩れる前にそっと汗をおさえましょう。パラソルは洋装にも和装にも似合うものを選ぶとよいでしょう。喫茶室では透明なソーダ水があなたの顔色を引き立ててくれます。色鮮やかなフルーツポンチや、艶のあるババロアなどを注文するとその場の空気が一層華やかに。会話の途中であいふぉーんなどを覗き見することは控えましょう。テーブルに乗った料理の写真を撮影することも、殿方は好ましく思いません。また行き届いた会話を望むあまり、堅苦しくなる必要などありません。いつものあなたらしい、自然な心持ちでおしゃべりを愉しめば良いのです。夜休む前に一行だけお礼のめーるを送りましょう。作文のように長々と書いてはスマートではありません。殿方に「またお会いしたい」と想わせる為には、急いであなたの総てを披露するのは逆効果です。恋心の七分目ほどを表現するくらいで丁度良いでしょう。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。
夏は肩のチカラをぜんぶ抜こう。
夏は太陽に降参してあちち!と笑おう。
夏はスキップして好きな人に会いにいこう。
夏は夕焼けの色を見逃すな。
夏は手ぶらで旅行に出かけよう。
夏は花火の音にザワザワしよう。
夏は道路の白い線だけを歩く。(大人になっても!)
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。
今月の水着はセパレートタイプだった。トップは明るいブルーで、胸元にはヨットの刺繍があしらわれている。ボトムは明るいブルーとホワイトの縞模様だ。先月の水着はパイナップル柄のワンピースタイプだった。大きなパイナップルと小さなパイナップルが、交互に描かれていた。私は水着工場で働いている。ラインに乗ってくる水着を受け取り、美しくたたみ、柔らかな紙で包む。それが私の仕事だ。工場は広い敷地に建っており、何十部屋もあるらしい。私は隣の部屋にしか行ったことがない。そこは水着を箱に詰めて発送する部屋で、一日じゅうラジオがかかっていた。私は友達に言ったら驚かれるくらいのお金を銀行に預けている。来月、私はそれらのお金を全部おろして、水着工場を辞め、3年前に出会った男のこを追いかけて南の島へ行く。そして一生ここには戻ってこないつもりだ。男のこが働いているカフェしか知らないけれど、もうそこにはいないかもしれないけれど、私はその男のこと結婚するような気がしている。男のこに会ったらHi!と手をあげて挨拶するだろう。その時の私はデニム生地のビスチェに、ベビーピンクのフレアースカートを着ていようとおもう。手にはバニラシェイクなんかを持っていたい。それからのことは成りゆきで。きっとうまくいく。工場の窓から太陽のヒカリが本格的にさしてきた。あと7分で昼の休憩だ。家から持ってきたベーグルサンドがある。この暑さでクリームチーズが溶け出していないかが心配だ。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。
おーい!って叫んでみた。
ふーんってかえってきた。
どうかーい?って叫んでみた。
まぁねってかえってきた。
どんな気分ー?って叫んでみた。
おなかすいたってかえってきた。
まだまだいくつもりでいるらしい。
わらっちゃうほどしぶといやつだ。
自分でじぶんをあまくみていた。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。
まるいバスケットには何が入ってる。
太陽の味がするオレンジ。
カリッと弾けるリンゴ。
それとも砂糖たっぷりのドーナツ。
まるいバスケットには何が入ってる。
恋人のことをしたためた日記帳。
駆け落ち用のエアチケット。
それとも大きなダイヤモンド。
まるいバスケットには何が入ってる。
誰にも言えないかなしい過去。
見かけによらないド派手な野望。
それともそっとちいさな願い。
まるいバスケットを抱えたあのこ。
世界じゅうの秘密をひとりじめ。
誰も中身を知ることなんてできない。
たとえ神様だって。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。
ふわっと映像が浮かんで、
こころが6.6グラム(当社比)軽くなる。
ワンシチュエーションでつづる、
シラスアキコのショートストーリー。
自分がジブンにしっくりくる感じの時は、気分がいい。
こころと身体が同じ歩幅で歩いているのがわかる。
いつもこんな感じで生きていきたい。
でも、かなりの確率でイライラと聞こえてくる
「お急ぎのところ、電車が遅れて申し訳ございません」。
そんな時は“ここじゃないどこか”に、
ジブンをリリースしてしまおう。
きっと気持ちの針が、真ん中くらいに戻ってくるから。
広告代理店でコピーライターとしてのキャリアを積んだ後、クリエイティブユニット「color/カラー」を結成。プロダクトデザインの企画、広告のコピーライティング、Webムービーの脚本など、幅広く活動。著書に「レモンエアライン」がある。東京在住。
color / www.color-81.com
レモンエアライン / lemonairline.com
contact / akiko@color-81.com
◎なぜショートストーリーなのか
日常のワンシチュエーションを切り抜く。そこには感覚的なうま味が潜んでいる。うま味の粒をひとつひとつ拾い上げ文章化すると、不思議な化学反応が生まれる。新たな魅力が浮き上がってくる。それらをたった数行のショートストーリーでおさめることに、私は夢中になる。
イラストレーション
山口洋佑 / yosukeyamaguchi423.tumblr.com