冬の足おと。
ぽかぽかな気持ちで、冬にコンニチハ!ってあいさつしたい。きらきらしながら、石焼き芋を二つにわりたい。思わず蹴った石ころが、宙に浮くのを見届けたい。赤いマフラーに、うっとりと沈みたい。クリームシチューを次の日も、その次の日も味わいたい。電車の中の赤ちゃんの泣き声に、年の瀬を感じたい。冬の足おと、だんだん近づいてきたね。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。
ぽかぽかな気持ちで、冬にコンニチハ!ってあいさつしたい。きらきらしながら、石焼き芋を二つにわりたい。思わず蹴った石ころが、宙に浮くのを見届けたい。赤いマフラーに、うっとりと沈みたい。クリームシチューを次の日も、その次の日も味わいたい。電車の中の赤ちゃんの泣き声に、年の瀬を感じたい。冬の足おと、だんだん近づいてきたね。
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彼は子どもの頃から、じぶんの夢を秘密にしていた。そんなの無理、と言われることを恐れていたから。あたらしい夢が生まれるたびに、ひとつ、またひとつとポケットの中に押し込んでいった。ポケットは夢で大きくふくらんでいき、ついにポケットは破けて夢がぽろぽろと地面へ落ちていった。道ゆく人たちは夢を拾い上げて、勝手に夢を実現していった。彼は新聞を広げて「これ、実は僕の夢が元になってるんだ」と、恋人に自慢した。次の日、彼は新しいジャケットを着ていた。恋人がプレゼントしたものだった。ポケットにメモが入っていた。(夢はポケットに2個まで。さっさと行動に移すこと!!)
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。
おとなりのみいこさんが、しょんぼりしてる。さっきからまどべで、ほおづえついてる。ためいきついてる。なにがあったの。(なにもきかない)そうだそうだ、ふんわりホットケーキをさしいれしよう。どうぶつのかたちのビスケットもいいね。あまいたまごやきもどうかしら。それにはきいろいバターがひつようだ。なにはともあれ、バターをかいにいってきます。バターでみいこさんによろこんでもらいます。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。
晴れたらお日さまの匂いを感じよう。雨なら雨音に耳を澄まそう。風が吹けば手のひらを風にあてよう。約束を破られたら散歩でもして帰ろう。噂話を聞いたら好きな音楽で耳を洗おう。疲れたらため息ついて毛布にくるまろう。朝がきたらゆっくりと歩きだそう。
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影の部分と、ヒカリの部分が、いい具合に混ざり合えば。ほら、奥行きのある魅力的な雰囲気ができあがる。あなたの暗さも明るさも、黒い部分も白い部分も、いじわるさも優しさも、ウラもオモテも、スプーンでくるくるかき混ぜて。あなた色したカフェオレ、今日もフーフーいいながら(たまに舌をやけどしながら)味わうとしましょうか。
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おねえさんが缶詰を触った瞬間にダッシュで駆け寄りましょう/足首から太もものあたりまで爪を立ててよじ登り、空腹であることをアピールしましょう/早く!大盛りでお願い!と、言葉のアピールも忘れずに/皿に盛られたら口から直接いただきましょう/ゴハンが散らばっても気にしないこと/むしろおねえさんは「まぁまぁ」と目を細めて喜びます/食べるのが遅いきょうだいがいても、横取りしてはいけません/食後の身だしなみは念入りに/次におねえさんの食事が始まるまで待機/膝の上に乗って”焼き鮭”を狙いましょう/ダメ!と言われてもしつこく/ビールを取りにいく時がチャンス/焼き鮭を齧って逃げましょう
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月曜日に告白した。火曜日に返事をもらった。水曜日にデイトの下見をした。木曜日に髪を切った。金曜日にデイトに誘った。土曜日に喫茶店→プラネタリウム→プラモデル屋のデイトをした。日曜日に電話でフラれた。あー水曜日に時間を戻してくれ!姉貴に相談したら(デイトコースは関係ない!)と言われた。そんな僕の7デイズ。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。
私は約束を破ったことがない。なぜなら私は誰とも約束をしないから。自分への約束も守れない私が、自分以外の人と約束をするなんて、そんな図々しさを私は持ち合わせていない。明日の気分なんて、今日はわからない。1秒後、1ヶ月後、1年後なんてわかるはずがない。私の気持ちはいつも移ろい続けている。オーロラのように変わり続けている。ほら、今だってパンケーキをオーダーするつもりが、おもわずハムサンドって言っている。
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まぶしい真夏の恋をしていた時よりも、夏の後ろ姿をぼんやりと見つめながら、グラスの底に残った氷をストローでいじる女友達は綺麗になったとおもった。この夏、すべてが始まって、すべてが終わった。たっぷり傷ついたけど、たっぷり楽しかったよ、と。彼女の痛みはどこを通過して、どこへ消えていくのだろう。夏の切符は小さく破いて、捨てた。静かなため息と一緒に、次の季節にいく。
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あなたが昼寝をしているあいだに、世界じゅうの問題が解決していく!***欠品していた乳液は、3ダースもドラッグストアに届く。揚げ過ぎたコロッケは、焦げつき愛好者が買っていく。デイトの1時間前に、ストライプのワンピースがクリーニングから戻ってくる。バーのカウンターでは、酔っ払いの隣に酔っ払いが座る。売ったことを悔やんでいたアロハシャツと、古着屋で再び出会う。空腹で倒れそうな瞬間、友達がキャンディーをくれる。恋人と別れた次の日、一目惚れをしてしまう。昼寝から起きたら、世の中はくっきりすっきり。
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ふわっと映像が浮かんで、
こころが6.6グラム(当社比)軽くなる。
ワンシチュエーションでつづる、
シラスアキコのショートストーリー。
自分がジブンにしっくりくる感じの時は、気分がいい。
こころと身体が同じ歩幅で歩いているのがわかる。
いつもこんな感じで生きていきたい。
でも、かなりの確率でイライラと聞こえてくる
「お急ぎのところ、電車が遅れて申し訳ございません」。
そんな時は“ここじゃないどこか”に、
ジブンをリリースしてしまおう。
きっと気持ちの針が、真ん中くらいに戻ってくるから。
広告代理店でコピーライターとしてのキャリアを積んだ後、クリエイティブユニット「color/カラー」を結成。プロダクトデザインの企画、広告のコピーライティング、Webムービーの脚本など、幅広く活動。著書に「レモンエアライン」がある。東京在住。
color / www.color-81.com
レモンエアライン / lemonairline.com
contact / akiko@color-81.com
◎なぜショートストーリーなのか
日常のワンシチュエーションを切り抜く。そこには感覚的なうま味が潜んでいる。うま味の粒をひとつひとつ拾い上げ文章化すると、不思議な化学反応が生まれる。新たな魅力が浮き上がってくる。それらをたった数行のショートストーリーでおさめることに、私は夢中になる。
イラストレーション
山口洋佑 / yosukeyamaguchi423.tumblr.com