エッグデイト。
月曜日はゆでたまごだった。
火曜日はスクランブルエッグだった。
水曜日は明太子入り卵焼きだった。
木曜日はハムエッグだった。
金曜日はチーズ入りオムレツだった。
土曜日はポーチュドエッグだった。
日曜日は一緒に手をつないでたまごを買いにいった。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。
月曜日はゆでたまごだった。
火曜日はスクランブルエッグだった。
水曜日は明太子入り卵焼きだった。
木曜日はハムエッグだった。
金曜日はチーズ入りオムレツだった。
土曜日はポーチュドエッグだった。
日曜日は一緒に手をつないでたまごを買いにいった。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。
ダブリュ氏は2時間しか眠れなかった/朝からため息/完全に睡眠不足/濃いコーヒーすする/頭がぼんやり/帽子を深く被っているようだ/地下鉄に乗る/階段を登る/人と会話をする/ダブリュ氏はあることに気づく/世の中の情報が半分しか入ってこない/脳がうまく飲み込めない/人の顔をじっと見てる/言葉より表情で理解する/人の顔とは面白い/だんだん愉快な気分になってくる/悩み事が思い出せない/まったく腹がたたない/すべてがOK/誰かがぶつかってきても/自分からあやまるだろう/空をみたら広かった/女友達から言われた/今日のあなたはいい感じ/睡眠不足は人を魅力的にする…のか?
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。
クローゼットの中身を半分にしたら服が増えた。
2軍だったジャケットが1軍になった。
いまの気分にぴったりだ。
冷蔵庫のもろもろを棚卸ししてすっきりさせた。
ぽかぽか野菜スープができあがった。
カラダがにっこりよろこんでる。
テレビをパチっと消して日記を書いた。
ゴロゴロ本音が出てきて驚いた。
やりたくないこと辞める決心がついた。
電気を消してお風呂に入った。
お湯がゆらぐ音に懐かしさを感じた。
いま自分は宇宙に浮いてるのだと気がついた。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。
お医者さんは「うむ、ビタミンが足りませんな」といいました。
おんなのこは「はい、ではオレンジ色のワンピースをかいます」といいました。
お医者さんは「うむ、カルシウムが足りませんな」といいました。
おとこのこは「はい、では一番高い木によじのぼります」といいました。
お医者さんは「うむ、気管支が弱っとりますな」といいました。
ねこのりりは「はい、では緑色の空気をたべます」といいました。
お医者さんは「うむ、変わった心臓の音ですな」といいました。
たぬきのぽんは「はい、では音にあわせてダンスをします」といいました。
お医者さんは「うむ、カラダの中がピンク色でできています!」とおどろきました。
うさぎのぴょんは「わたしはカラダの中もぜんぶ可愛くできています」といいました。
世の中には、お医者さんがしらないこと、まだまだいっぱいありそうです。
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真っ白い画用紙になに描こう。そうだ、大きな橋を描こう。画用紙の端から端までつながっている大きな橋。そして空を描こう。青いクレヨンだ。鳥が飛んで、雲が浮かんで、空はずっと高くて、高くて。青いクレヨンは画用紙からはみ出してしまった。でも、かまわない。空はずっと高いから、廊下からドアの向こうまで続いていて、ぐんぐん伸びていって、家からもはみ出してしまった。ペットショップを過ぎて、パン屋を過ぎて、公園を過ぎて、そろそろ右手がいたくなってきたけれど、かまわない。空はどこまでもつながって、あっ海が見えてきた。砂浜を通り過ぎて、海の中に入ったら、青いクレヨンは海に溶けていった。海を両手ですくってみた。空の青とクレヨンの青が混ざってきれい。あんなに高い空をいまこうして触っている。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。
バトコはコトバがきらい。
だって口にしたとたん変色してしまうから。
賞味期限は1秒もない。
だからホントのことはぜったい口にしない。
バトコはコトバがうまい。
相手がよろこぶコトバはすぐわかる。
バトコのコトバはダンスをしているようだった。
くるくると自由に踊り続けるコトバ。
バトコはきょう夕焼けを浴びた。
そうしたらホントのことが言いたくなった。
バトコはオトコに電話をした。
「あたし…」というコトバしか出てこなかった。
そうしてずっと涙をながしていた。
バトコは初めてホントのコトバを口にした。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。
僕の席とあのこの席はちょうど教室の対角線上にあって、クラスの中で一番離れている。それでも僕は、1日に1度あのこに話しかけることにしている。ジョークが面白いわけでも、足がはやいわけでも、絵が上手いわけでもない僕は、きっと印象が薄いやつ、なんだとおもう。だから、あのこにとって“なんとなく気があう”ポジションをねらってきた。
2月14日の今日は、あちらこちらでなんだかフワフワした空気。女子同士でヒソヒソ&キャッキャ。隣の席のやつは「ちょっといい?」と、顔を赤らめた女子に廊下へ呼び出されていった。あのこをチラチラと観察する。大きな動きはなさそうだ。僕にチョコをくれなくても落ち込まない。他の誰かにチョコを渡すのだけはやめてほしい。かみさま、それだけはカンベンしてほしい。
すべての授業が終わり、何事もなく僕は校庭を歩き出す。タッタと足音が聞こえてきたと思ったら、あのこが僕に追いついてきて、僕のポケットに何やら入れた。そしてタッタとかけていった。ポケットから出てきたのは小さなメモ紙。“どんなチョコが好き?明日おしえて!”と書いてあった。僕はこころの中で飛び上がった。こころの中でガッツポーズをした。あのこのこういうセンスが大好きなんだ。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。
帰宅ラッシュの地下鉄。人と人のあいだにギューッと挟まれて、身体を半分くらいの薄さにしながら、人差し指と中指でピースサインをつくり、肩にかけたカバンの口になんとか風穴をあける。さぁ、ちょうどカバンの中に手首が入る格好になった。彼女は猛烈にリップクリームを取り出したい。カサついた唇に今すぐうるおいを与えたい。指先に全神経を集中させて、モノの素材を感じとる。これはダイアリー、これはハンカチ、これは鍵。カバンの中が、真っ暗なゴツゴツした岩山の風景に変わる。下に下に指先を降ろしていくと、革のポーチにたどりつく。冷たいジッパーをつまみ横に引く。指先はポーチの中に眠る細い円柱型のリップクリームに到達する。人差し指と中指でリップクリームを挟む。岩の障害物たちをかわしながら、UFOキャッチャーの要領で用心深く上へ上へと引き上げていく。もう少しでカバンからリップクリームが救出されるその瞬間。アーーーーーーッ。地下鉄は大きく前へ揺れ次の駅に止まり、リップクリームは指先から離れ、グランドキャニオンに落ちていった。彼女は深めのため息。地上に上がったらリップクリームを三度塗りしてやろうと心に誓う。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。
彼女は元気が出なかった。
だからベッドの上にずっといた。
ベッドの上で少し泣いた。
ベッドの上でシュークリームを食べた。
ベッドの上で日記を書いた。
ベッドの上でマンガを読んだ。
ベッドの上でストレッチをした。
ベッドの上でバカンスの計画をたてた。
ベッドの上で水着とワンピースを買った。
ベッドの上で白ワインを飲んだ。
ベッドの上で冬眠した。
朝がきた。
鏡をみた。
肌と瞳と髪の毛が新品になっていた。
彼女はすぐに出かけたくなっていた。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。
エレヴェーターに乗り込む。空に浮いた小さな箱は、吸い込まれるように下降していく。夕刻の大通りを歩き出す。トレンチコートのボタンをひとつ、ふたつはずす。彼はまるでネオンライトの海を泳ぐように、器用にスイスイと前へ進んでいく。
重いドアを開けると、たちまち鈍い爆発音がこだまする。湧き上がる歓喜の声。異次元を作り出す空間。ここはボーリング場だった。彼は奥のコーヒーカウンターに進む。8脚の白いストゥールは固定されており、オレンジ色のカウンターは半円を描いている。「バドワイザーとナポリタン」彼は座ると同時に注文する。「あなた最後にボーリングをしたのは、いつ?」還暦を過ぎたママは相変わらずの美人だ。豊かな髪は栗色に染まり、透明感のある肌は品を醸しだしていた。
「20年くらい前かな」「飽きもせず、ボーリング場のナポリタンを食べ続けてくれるのね」彼はここの冷たいビールと真っ赤なスパゲッティナポリタンを味わうためだけに、ボーリング場にもう何十年も通っているのだった。
彼はボーリング場の音が好きだった。それは破壊と再生の音。どんなBGMよりも心地いい。冷えたバドワイザーをグラスに注ぎながら、彼はぼんやりと考えていた。この感覚と似ているもうひとつの場所がある。それはガソリンスタンドのウェイティングスペースだ。簡単なソファーに座り、自動販売機から出てくる紙コップのコーヒーを啜るのがたまらなく好きだった。ある惑星の一番端に確保された自分の居場所。ボーリング場もガソリンスタンドも、本来食事をしたりコーヒーを飲む場所ではない。サーヴィスとしてのささやかな場所だ。この距離感がたまらなく心躍らせるのだ。銀色の皿にのった真っ赤なナポリタンが、いま目の前に届いた。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。
ふわっと映像が浮かんで、
こころが6.6グラム(当社比)軽くなる。
ワンシチュエーションでつづる、
シラスアキコのショートストーリー。
自分がジブンにしっくりくる感じの時は、気分がいい。
こころと身体が同じ歩幅で歩いているのがわかる。
いつもこんな感じで生きていきたい。
でも、かなりの確率でイライラと聞こえてくる
「お急ぎのところ、電車が遅れて申し訳ございません」。
そんな時は“ここじゃないどこか”に、
ジブンをリリースしてしまおう。
きっと気持ちの針が、真ん中くらいに戻ってくるから。
広告代理店でコピーライターとしてのキャリアを積んだ後、クリエイティブユニット「color/カラー」を結成。プロダクトデザインの企画、広告のコピーライティング、Webムービーの脚本など、幅広く活動。著書に「レモンエアライン」がある。東京在住。
color / www.color-81.com
レモンエアライン / lemonairline.com
contact / akiko@color-81.com
◎なぜショートストーリーなのか
日常のワンシチュエーションを切り抜く。そこには感覚的なうま味が潜んでいる。うま味の粒をひとつひとつ拾い上げ文章化すると、不思議な化学反応が生まれる。新たな魅力が浮き上がってくる。それらをたった数行のショートストーリーでおさめることに、私は夢中になる。
イラストレーション
山口洋佑 / yosukeyamaguchi423.tumblr.com