おはよう、おめでとう。
パチと目覚めても、
ドロッと目覚めても、
ボワーと目覚めても、
朝、目が覚めたということは、
おめでたい。
それだけで、おめでたい。
可能性のかたまり、おはよう。
何を見て何を感じるかは、
じぶんにかかっている。
ご自由にどうぞ!と太陽がいっている。
ベッドから足をおろす。
最初の一歩からはじめられる。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。
パチと目覚めても、
ドロッと目覚めても、
ボワーと目覚めても、
朝、目が覚めたということは、
おめでたい。
それだけで、おめでたい。
可能性のかたまり、おはよう。
何を見て何を感じるかは、
じぶんにかかっている。
ご自由にどうぞ!と太陽がいっている。
ベッドから足をおろす。
最初の一歩からはじめられる。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。
本質的なところからずいぶん遠い街へきてしまったような、そんな空気をカットアウトするには。話を必死に戻そうと努力してはいけない。サラサラと書類をめくる音を披露しても、椅子をゆらゆらと不安定に揺らしても、何の解決もしない。グレーのワンピースに黒いエナメルのパンプスを履いた秘書が、銀色のワゴンをひきながら登場したのは、絶妙なタイミングだった。赤と緑のプチトマトにクリームチーズ。オイルサーディンにアボカド。ブラックオリーブに生ハム。ピンチョスの花畑が、会議をつかさどる。さっきからダンマリだったツイードのジャケットの彼が、ピンチョスの3層構造からヒントを得て、ディスカッションはたったの20分でしあわせな終わりかたをしたのであった。からっぽの会議室。皿の上には数枚のレモンスライスとパセリだけが残っている。高層ビルの間を、個人が操縦するヘリコプターがスイスイとくぐり抜ける。ドアの隙間から忍び込んだ銀色の猫は、テーブルに飛び乗る。皿の上の残り物に興味を示すものの、好みじゃないことがわかりそっぽを向く。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。
「タンポポ、欲しいなぁ。部屋にあればいいのに。」彼女がほとんどミルク色をしたミルクティーをひとくち飲んでささやいたものだから、彼はまだ薄ら寒い春の午後、裸足のままスニーカーをつっかけながら部屋から飛び出してしまった。彼にはタンポポが咲いている場所に記憶があった。それは駅へ向かう途中、裏道に入ったところだ。(あった!)タンポポは気持ちよさそうに目をとじて、太陽のやわらかなヒカリを浴びていた。彼は黄色いタンポポの花を1本と、白い綿毛のタンポポを2本を、そっと地面から抜き取った。こころの中で(ごめんよー)と謝りながら。きっと彼女が欲しがっているタンポポは、白い綿毛の方だということはわかっていた。なぜなら繊細で掴みどころのないところが、彼女にそっくりだから。そこが彼を一番悩ませる性格であり、もっとも惹かれる部分でもあったのだ。彼はタンポポを抱えて走り出す。彼女の驚いた&嬉しそうな顔がもうすぐ見られる。ふたりの白いアパートメントが見えてきたその時、冷たい春風がひゅーっと吹いた。まぁるい綿毛はひとつひとつの小さなパラシュートに分かれて、申し合わせたように上へ上へと舞いあがっていく。彼は思わず手を伸ばしてつかもうとするが、ひとつ残らずすり抜けていく。青く澄みきった空に、昼間の星のようにまたたいている。彼はただただその光景の中に佇んでいる。
*「電車は遅れておりますが」 は毎週火曜日に更新しています。
水色のアイスキャンディーをなめながら、んんんー♩と嘘の歌をうたっていると、黄色い小鳥が肩にのってきた。グッモーニン。朝のあいさつ。コーヒーのいい香りを追いかけてぐんぐん奥にすすむと、キッチンに到着。ふわふわなシッポのリスが、朝食の準備をしていた。「バゲットをカリッと焼いてクリームチーズを塗ってあげましょう?」リスは疑問形に近いニュアンスで彼女に告げた。「やったぁ!今朝はそんな気分だったの。」紙のように薄いパンケーキにたっぷりのバターを塗るメニューが気に入って、毎朝リスにお願いしていたのだけれど、何日も続くとさすがに彼女も飽きてきたところだった。
カタカタ、カタカタカタカタ、チーン。軽やかなBGMは、タイプライタァの音。「そろそろできそう?地球に送る資料。」彼女は少し熱すぎるコーヒーを用心深く啜りながら、アライグマに聞いた。「夕方の宇宙郵便には間に合いそうです。」事務的なことはすべて几帳面なアライグマにおまかせ。彼女よりアライグマの方が、何倍もクオリティが高くそしてスピーディに仕上がるのだ。
彼女は楕円の窓から外を眺める。空は薄いピンクにブルーがにじんでおり、金色の細かい星がいくつも横切っていく。(朝食をとったら本の続きを書こう。あ、その前にネコとストレッチだ。)彼女は宇宙船をオフィスにしてから、仕事の効率が上がった。地球にいた頃よりも気持ちが軽くなった、自由になった。おかげで本の売れ行きは素晴らしかった。来月、地球と木星限定で発売される本のタイトルは「あっ不思議。宇宙だとすべてが思い通り!」。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。
ちょっとみけんにシワをつくってみた。
長めのため息をはいてみた。
とぼとぼと肩を落として歩いてみた。
でもこれって普通すぎるなっておもった。
筋書き通りの態度だよねってはずかしくなった。
たとえ世界中ががっかりしても、
自分まで同じ色に染まらなくてもいい。
こころの壁紙の色くらい自分で決めよう。
ミルクor シュガー?
コーヒーの飲み方だって好みがあるように。
自分の気持ちは自分で選びとる。
自分の気持ちは誰にも操作できない。
あ、きみと目があった。
いたずらっぽいヒカリ。
アイデア、言いあおうか。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。
月曜日はゆでたまごだった。
火曜日はスクランブルエッグだった。
水曜日は明太子入り卵焼きだった。
木曜日はハムエッグだった。
金曜日はチーズ入りオムレツだった。
土曜日はポーチュドエッグだった。
日曜日は一緒に手をつないでたまごを買いにいった。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。
ダブリュ氏は2時間しか眠れなかった/朝からため息/完全に睡眠不足/濃いコーヒーすする/頭がぼんやり/帽子を深く被っているようだ/地下鉄に乗る/階段を登る/人と会話をする/ダブリュ氏はあることに気づく/世の中の情報が半分しか入ってこない/脳がうまく飲み込めない/人の顔をじっと見てる/言葉より表情で理解する/人の顔とは面白い/だんだん愉快な気分になってくる/悩み事が思い出せない/まったく腹がたたない/すべてがOK/誰かがぶつかってきても/自分からあやまるだろう/空をみたら広かった/女友達から言われた/今日のあなたはいい感じ/睡眠不足は人を魅力的にする…のか?
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。
クローゼットの中身を半分にしたら服が増えた。
2軍だったジャケットが1軍になった。
いまの気分にぴったりだ。
冷蔵庫のもろもろを棚卸ししてすっきりさせた。
ぽかぽか野菜スープができあがった。
カラダがにっこりよろこんでる。
テレビをパチっと消して日記を書いた。
ゴロゴロ本音が出てきて驚いた。
やりたくないこと辞める決心がついた。
電気を消してお風呂に入った。
お湯がゆらぐ音に懐かしさを感じた。
いま自分は宇宙に浮いてるのだと気がついた。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。
お医者さんは「うむ、ビタミンが足りませんな」といいました。
おんなのこは「はい、ではオレンジ色のワンピースをかいます」といいました。
お医者さんは「うむ、カルシウムが足りませんな」といいました。
おとこのこは「はい、では一番高い木によじのぼります」といいました。
お医者さんは「うむ、気管支が弱っとりますな」といいました。
ねこのりりは「はい、では緑色の空気をたべます」といいました。
お医者さんは「うむ、変わった心臓の音ですな」といいました。
たぬきのぽんは「はい、では音にあわせてダンスをします」といいました。
お医者さんは「うむ、カラダの中がピンク色でできています!」とおどろきました。
うさぎのぴょんは「わたしはカラダの中もぜんぶ可愛くできています」といいました。
世の中には、お医者さんがしらないこと、まだまだいっぱいありそうです。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。
真っ白い画用紙になに描こう。そうだ、大きな橋を描こう。画用紙の端から端までつながっている大きな橋。そして空を描こう。青いクレヨンだ。鳥が飛んで、雲が浮かんで、空はずっと高くて、高くて。青いクレヨンは画用紙からはみ出してしまった。でも、かまわない。空はずっと高いから、廊下からドアの向こうまで続いていて、ぐんぐん伸びていって、家からもはみ出してしまった。ペットショップを過ぎて、パン屋を過ぎて、公園を過ぎて、そろそろ右手がいたくなってきたけれど、かまわない。空はどこまでもつながって、あっ海が見えてきた。砂浜を通り過ぎて、海の中に入ったら、青いクレヨンは海に溶けていった。海を両手ですくってみた。空の青とクレヨンの青が混ざってきれい。あんなに高い空をいまこうして触っている。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。
ふわっと映像が浮かんで、
こころが6.6グラム(当社比)軽くなる。
ワンシチュエーションでつづる、
シラスアキコのショートストーリー。
自分がジブンにしっくりくる感じの時は、気分がいい。
こころと身体が同じ歩幅で歩いているのがわかる。
いつもこんな感じで生きていきたい。
でも、かなりの確率でイライラと聞こえてくる
「お急ぎのところ、電車が遅れて申し訳ございません」。
そんな時は“ここじゃないどこか”に、
ジブンをリリースしてしまおう。
きっと気持ちの針が、真ん中くらいに戻ってくるから。
広告代理店でコピーライターとしてのキャリアを積んだ後、クリエイティブユニット「color/カラー」を結成。プロダクトデザインの企画、広告のコピーライティング、Webムービーの脚本など、幅広く活動。著書に「レモンエアライン」がある。東京在住。
color / www.color-81.com
レモンエアライン / lemonairline.com
contact / akiko@color-81.com
◎なぜショートストーリーなのか
日常のワンシチュエーションを切り抜く。そこには感覚的なうま味が潜んでいる。うま味の粒をひとつひとつ拾い上げ文章化すると、不思議な化学反応が生まれる。新たな魅力が浮き上がってくる。それらをたった数行のショートストーリーでおさめることに、私は夢中になる。
イラストレーション
山口洋佑 / yosukeyamaguchi423.tumblr.com