
オーロラ気分。
浮いたり、沈んだり。ひらめいたり、あきらめたり。走りだしたり、止まってしまったり。身体は感情の入れ物だから。感情がゆらゆら動くたびに、身体もうつろってしまう。こういうのって疲れるけれど、こういうのが生きてるってことなのだ。つかみどころのないオーロラを、今日もわたしたちは飼っている。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。
浮いたり、沈んだり。ひらめいたり、あきらめたり。走りだしたり、止まってしまったり。身体は感情の入れ物だから。感情がゆらゆら動くたびに、身体もうつろってしまう。こういうのって疲れるけれど、こういうのが生きてるってことなのだ。つかみどころのないオーロラを、今日もわたしたちは飼っている。
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冷えたドアノブをまわすと、部屋の奥から甘ったるい声が聞こえた。「おかえりなさい」の響きの中には(遅かったわね)のニュアンスが8割含まれている。僕は彼女の不機嫌に気づかないふりをして、テイクアウトしてきた袋を見せつける。できるだけ無邪気に。彼女は袋の中身が大好物であることを知っているはずなのに、相変わらずソファーに沈んだままだ。冷蔵庫から缶ビールを取り出して、そっとプルトップを開ける。こういう時はプシュッと景気よく開けない方が良いことぐらい、彼女と暮らした年月で学んでいる。「乾杯!」と3割の笑顔でビールをかざしたら、やっと僕の膝の上に飛び乗ってくれた。ダメな僕を許してくれてありがとう。彼女はあたたかな喉をゴロゴロと鳴らした。
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「てぶくろと、ポケット、どっちがいい?」彼女の質問の意味がわからない僕は「えっと…」しか出てこない。学校の帰り道、今日こそ彼女に告白しようと決めていたのに。突然、大きな北風が僕らをめがけて吹き抜けていく。「手、冷たそうだから、てぶくろ貸してあげようかなーって思ったけど」彼女は僕の手をとり、ピーコートのポケットにふたりぶんの手を入れた。ポケットの中の宇宙で、僕たちはふたりきりになった。
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目覚まし時計が目を覚ましてくれなかったとしても。天気予報にだまされて服装を間違ったとしても。みんなが食べ終わるころ自分のランチが運ばれてきたとしても。買ったお花が全員下を向いたとしても。チェリーピンクのリップとオレンジピンクのチークを、くりくりくりと塗り重ねれば、すべてはオーケイ。さぁ次いってみよう!
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夏ってどんなふうだっけ。逃げ場がないほど明るくて、サンオイルの香りが街じゅうに漂ってたっけ。透明なソーダを毎日飲んでたっけ。白いショートパンツで、ラジオにあわせて踊ってたっけ。約束をいくつもして、デイトのはしごで忙しかったっけ。裸足でソフトクリームをなめながら、塀の上の茶色いネコにあいさつしたっけ。もう、夏がどんなふうか忘れてしまった。ただ、とてつもなく素晴らしいものらしい。
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ふとんにくるまって、素晴らしい夢の続編を見たくて、しっかりと目をとじていたのだけど、お腹が空いているのが気になって(ぐぅ……)、ふたたび眠ることに集中できなくて、泣く泣くベッドから起きてきた。もう空腹のやつめ。お湯を沸かしインスタントコーヒーをつくり、パンの上にチーズを乗せてトースターで焼く。さぁ、朝食だ。と、電話が鳴る。え?朝から誰?「おれ、です。昨日はライブに来てくれてありがとう」「あ…握手してもらえて嬉しかったです!」「今日、ブランチでもどうかな、って思って」「喜んで!」「仕事は大丈夫なの?」「休みます!!」奇跡だ。電話をきって、思わずほっぺたをつねる。こういう仕草、ドラマで見たことあるけど、私もやるんだ。妙に客観的に感動している自分がいる。ぐぅ、ぐぅ、ぐぅ。私のお腹がまた鳴りはじめた。 [語り:ケータイの目覚ましアラームは、その後45分間も鳴り続けたのであった。ぐぅ、ぐぅ、ぐぅ…]
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澄みきった空気をスーーハーー、からだじゅうに送り込む。輝く水をゴクリゴクリ、皮膚のずっと奥まで染み込ませる。大地の上をピョンピョンピョン、骨が喜んで前へ前へ。あのモヤモヤは、ポーンと空に飛ばしちゃお。生きてるだけで、鍛えてる。生きてるだけで、めぐってる。
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屋根裏部屋で目玉焼きを焼いていたら、小鳥さんが窓をつつくものだから、あ、ちょっと待って!と叫んだの。なのに、小鳥さんはつつくのをやめないから、しかたなく振り返ると。お空に大きな目玉焼きが、ゆっくりゆっくりと流れていくではありませんか。黄身の上に寝そべったネコのリリックが、こちらに手を振っている。おーーーい!私は急いでフライパンを取りにいって、これこれ!と、いい焼き加減の目玉焼きを見せた。偶然ってあるものだ。小鳥さんは満足げに片目を閉じて、お空に高く飛んでいった。
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落ちに落ちたとき、絶望の一番底にいたとき。まさか、数ミリ先にヒカリが待っているなんて、思うはずもなく。特殊なブザーが聞こえない限り、真っ暗な液体に飲み込まれていくのだと。重くて、トロリと、深い、闇。それでも息だけは、する。息だけは、する。と、ちいさな風が吹いてきて、ちいさな風景が見えてきて。ものごとはずっと続かないのだ、ということに気づく。いいことも、よくないことも、ずっと続かないことを知らされる。細胞だって、いま、新しいものがうまれた。
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ぽつりぽつり語ったあと、シーンと沈黙。突然、ひとりが思い出し笑い、からの、ふたりで大笑い。からの、シーン。こんな感じのサシ飲みって、ゼイタク。いいこと報告しなくちゃ、とか、久々会ったんだから面白い相談を披露しなくちゃ、なんて必要ない。つまらないのが心地よい、ぼんやりサシ飲み、いかが。
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ふわっと映像が浮かんで、
こころが6.6グラム(当社比)軽くなる。
ワンシチュエーションでつづる、
シラスアキコのショートストーリー。
自分がジブンにしっくりくる感じの時は、気分がいい。
こころと身体が同じ歩幅で歩いているのがわかる。
いつもこんな感じで生きていきたい。
でも、かなりの確率でイライラと聞こえてくる
「お急ぎのところ、電車が遅れて申し訳ございません」。
そんな時は“ここじゃないどこか”に、
ジブンをリリースしてしまおう。
きっと気持ちの針が、真ん中くらいに戻ってくるから。
広告代理店でコピーライターとしてのキャリアを積んだ後、クリエイティブユニット「color/カラー」を結成。プロダクトデザインの企画、広告のコピーライティング、Webムービーの脚本など、幅広く活動。著書に「レモンエアライン」がある。東京在住。
color / www.color-81.com
レモンエアライン / lemonairline.com
contact / akiko@color-81.com
◎なぜショートストーリーなのか
日常のワンシチュエーションを切り抜く。そこには感覚的なうま味が潜んでいる。うま味の粒をひとつひとつ拾い上げ文章化すると、不思議な化学反応が生まれる。新たな魅力が浮き上がってくる。それらをたった数行のショートストーリーでおさめることに、私は夢中になる。
イラストレーション
山口洋佑 / yosukeyamaguchi423.tumblr.com