スパゲッティがトンネルに入るとき。
手の中にずんと重みを覚えるシルバーのフォークに、スパゲッティを巻きつけている。オリーブオイルで“てらん”と輝いている麺には、バジルのみじん切りが細かく張りついている。フォークを時計まわりに回転させ、皿から少しずつ浮かせていくと、口に入らないくらいまで麺を集めてしまった。次は反省して2、3本の麺を集めようとすると、麺は “ぷるり”と逃げていく。まるで、真っ暗な、トンネルのような口の中に入るのを嫌がるように。そしてようやく、いい具合に麺を巻きつけたとき、ドアの呼び鈴が鳴った。インターフォンの画面には、昔別れた彼女が映っていた。(その後、彼はスパゲッティを食べたでしょうか?)