人はどこまでプレーンになれるか。
シェフの気まぐれサラダは、いつもベビーリーフとゆで卵と生ハムが盛られたもので、シェフの気まぐれはまったく入っていないし。本日のキッシュは、ほうれん草とベーコンのキッシュと一年じゅう決まっていたけれど。彼は今日もこの喫茶店に来てしまった。そして「シェフの気まぐれサラダと、本日のキッシュと、ホットコーヒーをください。」と、正式名称をウエイトレスに告げるのであった。
テーブルの脇には観葉植物が見事に育っていて、葉っぱの艶はまるでレプリカのような勢いがあり、彼は毎回葉っぱを手で触り確認する癖があった。(そして今日も確認した)BGMはだいたいポール・モーリアだった。氷が3個浮かんだ水を口に含む。料理が来るまでのあいだ、彼は午後の仕事の手順を考えることにした。BGMがビートルズに変わっていることに、しばらくして気づく。シェフ(というか喫茶店の主人)は、有線のチャンネルを入れ間違えたのだろうか。斜め前のご婦人がコップの水をこぼした。氷が床に落ちてキラキラと輝いている。