コケットな同居人。
冷えたドアノブをまわすと、部屋の奥から甘ったるい声が聞こえた。「おかえりなさい」の響きの中には(遅かったわね)のニュアンスが8割含まれている。僕は彼女の不機嫌に気づかないふりをして、テイクアウトしてきた袋を見せつける。できるだけ無邪気に。彼女は袋の中身が大好物であることを知っているはずなのに、相変わらずソファーに沈んだままだ。冷蔵庫から缶ビールを取り出して、そっとプルトップを開ける。こういう時はプシュッと景気よく開けない方が良いことぐらい、彼女と暮らした年月で学んでいる。「乾杯!」と3割の笑顔でビールをかざしたら、やっと僕の膝の上に飛び乗ってくれた。ダメな僕を許してくれてありがとう。彼女はあたたかな喉をゴロゴロと鳴らした。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。