18時03分の瓶ビール。
自分自身を祝福したくて。でも何ひとつ祝福する件はなくて。それでも低空飛行ちゅうの彼はなんとか自分自身を救いたくて、バーに不時着することにした。黒い革張りのドアを押すと、薄暗い空間があった。蝋燭の灯りをたよりに、誰もいないカウンターに座る。マスターは3ミリほどの会釈をする。何年か前に一度だけこの店に立ち寄ったことがあるが(きっと自分のことは覚えていないはずだ)と彼はおもう。今日は知りあいに会いたくなかったので、この状況が好都合だった。透き通ったグリーンの瓶が目の前に届く。冷えた瓶ビール。グラスにゆっくりと注ぐ。落ちていく黄金の液体。ふわりと立ち上がる白い泡。マスターは「おつかれさまです」と声をかける。彼はちいさく乾杯のポーズをとり「おつかれさまです」とこたえた。ビールの味は素晴らしかった。喉を通過していくときに、確かに彼は救われた。そして空腹にアルコールが広がっていくにつれ(マスターはもしかしたら自分のことを覚えているのかもしれない)という気になってくる。なんとなく、と表現するしかないのであるが。あえて放っておいてくれるマスターの心遣いに包まれながら、今日という日を生きた自分を祝福した。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。