いちご買って帰ろ。
春のまだ冷たい風を受けながら、私は交差点で信号待ちをしている。紺色とグレーで組み立てた、私のシックなファッション。何にでも合わせられるようにと、アクセサリーや靴も賢く選んでいる。部屋のインテリアもそうだ。飽きのこない落ち着いた空間にしたくて、白やベージュで統一している。(私は無駄なことが大嫌いだから)夕暮れの空に浮かび上がる赤いシグナルを、ぼんやりと眺めていると。「赤が足りない」とおもった。私には、赤が足りない。本当は変わりたい。空気なんて読みたくない。思うままに生きてみたい。自分の殻を破りたい。今まで見て見ぬ振りをしてきた気持ちが、こころの一番奥からあふれてくる。信号が青に変わると、私は一歩を踏みだした。デリカテッセンの前で立ち止まる。真っ赤ないちごと目があう。そうだ、いちご買って帰ろ。やんちゃなほどに赤く染まった、ぷっくりと艶めくいちご。私に食べさせてあげよう。私を目覚めさせてあげよう。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。