ファーストシーン。
海というものを初めて見た瞬間、3歳の僕は砂浜に尻もちをついた。海はつかみどころがなかった。予告もなく突然広がっていて、曇り空と一体となっていて、ドドドドーザザザザー。足元にちゃちゃを入れてくる波は小さくて白いのに、遠くの波はしんと深い灰色をしている。子どもたちは興奮してはしゃぎまわっている。しかし、大人たちまでもプカプカと浮いたり、しぶきを上げて泳いでいる様子が、とても奇妙に映った。僕は非日常の風景を、望遠鏡から覗いているような気分で見ていた。海。地球にはこんなに凄みのある、厳しい顔があったとは。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。