夏の日の願いごと。
立ったままの姿勢で、彼は自転車のペダルを漕いでいる。このまま最後まで坂を登りきれたら、夏休みの登校日を待たずにあの娘と会える。そんな密かな“願かけ”をしながら、長い坂を上っていく。蝉の合唱が大音量で響き渡る。自分の荒々しい息づかいが規則正しく重なっていく。
さっきから頬に流れる汗がわずらわしい。左肩を頬まで引き上げ、ティーシャツの袖で汗を拭おうと試みる。自転車はバランスを崩し右左によろけ、ついに彼は地面に足をついてしまった。あと少しで坂の頂上だったのに。身体じゅうから吸い上げて、ため息。むくむくと育った入道雲が、気落ちした少年を眺めている。あの娘はもう真っ黒に日焼けしているのだろうか。彼は彼女の細い腕の感じを、ぼんやりと思い浮かべてみる。