デートという試験。
彼女と学校以外の場所で初めて会うことになった。いわゆるデートというやつだ。クリーム色のカーディガンを羽織った彼女を本屋(待ち合わせ場所にした)で見つけた瞬間、僕は人格が変わってしまった。教室では冴えたギャグを連発してみんなを笑わせていた僕が、突然、つまらない男になってしまった。言葉が出てこない。何をしゃべっていいのかわからない。僕は昨日までいったい何をしゃべっていたのだろう。自分の心臓の音だけがドクンドクンうるさく主張する。
「どこ行こっか?」彼女はいつものナチュラルな彼女だ。「とりあえずアーケード歩こうか。」僕は自分の“言いまわし”に絶望する。歩こうか…って。普段は使わない言葉。もう自分が自分でなくなっている。いつもの商店街がよそよそしく見える。足が地面から3センチくらい浮いている。フワフワする。段取りとしてはもうすぐ見えてくる喫茶店に入るのだが、どう誘っていいのかわからない。
「お腹空かない?あのお店のホットケーキ美味しいんだよ?」彼女が先に切り出してくれた。よかった。でも、僕の気持ちを見透かされているのかもしれない。あぁいつもの僕に戻ってくれ。このままだと彼女に愛想をつかされる。夕方の5時を知らせる商店街の音楽が鳴りだす。その音は試験開始の先生の声のようだった。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。