エレヴェーター・マニアの視線。
銀色のドアが開く。
ミルクティー色のハイヒールで、右足から乗り込む。ピンクのネイルを施した指は、ロビー階のボタンを押す。外国人マダムのあまい香水が、かすかに残っている。古くて広いエレヴェーターは、ゆっくりと下降していく。木づくりの壁はていねいに磨き上げられており、落ち着いた輝きを放っている。ボタンは丸く飛び出していて、階数を示す数字のフォントは固めのゴシックだ。天井からはあたり障りのない、エレヴェーター・ミュージックが聞こえている。足元の赤い絨毯には、ホテルのロゴマークが描かれている。このエレヴェーターは、ほぼ彼女の好みを満たしていた。すべては上手く事が運びそうだ。彼女の予感はたびたび的中するのだ。