
夕焼けの合図。
どちらかがバイバイの気配を投げなければ、キャッチボールは永遠に続く。あいつのボールと僕のボールは会話になっている。言葉がなくても話している。むこうが思いっきり投げてくれば、こっちもさらに思いっきり。クスッと笑みがこぼれる。オレンジ色の太陽が、ゆっくりとビルの向こうに吸い込まれていく。あと一球、あと一球だけ。白いボールが、薄暗い空にポーンと高く舞い上がる。僕は駆け寄って、目を凝らしながらグローブにおさめる。これがバイバイの合図。今日も自分から言い出せなかった。ちょっとくやしい。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。