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誰かの花束。

頬杖をついてカフェで、ぼー。アイスコーヒーをストローで、くるくる。浮かんだ氷が鳴いている、ちろちろ。こころの中には、ずっと白い綿がつまったまま。私はいくつもの季節を、傍観者のように見送ってしまった。パッとシアワセになりたいのに。スカッと晴れた気分になりたいのに。でも、わかっている。じぶんがじぶんを動かしていないから、だ。やりたいことに言い訳をつけて、一歩を前に出さないから、だ。顔を上げて、通りに目をやる。人の波を、すいすいとすり抜けていく男性がいた。両手には大きな花束を抱えて。(花束は白いせつないかすみ草だけでできていた)一瞬、時間が止まった。知らない誰かが、知らない誰かに渡す花束の流れ弾が、私の中に入り込んだ。こころの白い綿をやさしく突き抜けた。しゅーっと風が通った。肚の一番底の方から、あたらしいちからが湧き上がってくるのを感じた。理由なんてなかった。

 

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

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電車は遅れておりますが

ふわっと映像が浮かんで、
こころが6.6グラム(当社比)軽くなる。
ワンシチュエーションでつづる、
シラスアキコのショートストーリー。

自分がジブンにしっくりくる感じの時は、気分がいい。
こころと身体が同じ歩幅で歩いているのがわかる。
いつもこんな感じで生きていきたい。

でも、かなりの確率でイライラと聞こえてくる
「お急ぎのところ、電車が遅れて申し訳ございません」。

そんな時は“ここじゃないどこか”に、
ジブンをリリースしてしまおう。
きっと気持ちの針が、真ん中くらいに戻ってくるから。

シラスアキコ Akiko Shirasu
文筆家、コピーライター Writer, Copywriter

広告代理店でコピーライターとしてのキャリアを積んだ後、クリエイティブユニット「color/カラー」を結成。プロダクトデザインの企画、広告のコピーライティング、Webムービーの脚本など、幅広く活動。著書に「レモンエアライン」がある。東京在住。

color / www.color-81.com
レモンエアライン / lemonairline.com
contact / akiko@color-81.com

◎なぜショートストーリーなのか
日常のワンシチュエーションを切り抜く。そこには感覚的なうま味が潜んでいる。うま味の粒をひとつひとつ拾い上げ文章化すると、不思議な化学反応が生まれる。新たな魅力が浮き上がってくる。それらをたった数行のショートストーリーでおさめることに、私は夢中になる。

イラストレーション
山口洋佑 / yosukeyamaguchi423.tumblr.com