43秒のミステリー。
僕が指定した場所は、風の吹く断崖絶壁だった。見下ろすと、白い波が台風の目のように渦巻いている。彼女は黒いトレンチコートを着込んで、まっすぐに立っている。黒いカチューシャでおさえた髪が、派手に舞っている。僕はジャケットの内ポケットに準備したものを、さり気なく確認する。彼女の両手は、トレンチコートのポケットに突っ込んだままだ。彼女の左手が動きだすその瞬間、僕は内ポケットから小さな箱を取り出した。そしてゆっくりと蓋をあける。彼女はじっとその中を見つめている。口角を上げ、ゆっくりとうなずいた。僕のプロポーズは成功したようだ。彼女はモノクロームの空に左手をかざして、僕の耳元でそっと囁いた。「私の指、空けといてよかった」
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。