
顔。
鏡の前にたつ。
自分の顔をじっとみる。
面白い顔をしている。
明るさと暗さが同居している。
黒目がつやっとしている。
自分のこころのすみずみまで、
見透かしているような。
口を縦に伸ばしてみる。
少しのん気さがでる。
口を横に伸ばしてみる。
笑っているようだ。
こいつは誰だ。
ずっとこの顔と生きてきた。
この顔は確かに自分なのだけれど。
この指も、首も、脚も。
馴染みがあるはずなのに。
初めて会った人物のような気がする。
右手を上げてみる。
命令すると動くけれど、
誰が命令しているのだろう。
自分はどこにいるのだろう。
自分はこの目の前の物体の中に、
入り込んでいるのだろうか。
脳の中に潜んでいるのだろうか。
こころ細い奇妙な感覚が、
じわじわと全身を占領していく。
自分はどこから来て、
どこに行くのだろう。
子どもの頃からずっと抱いていた謎が
まったく明かされないまま、
こんなに生きてしまった。
顔をじっとみる。
何もわからない。
*「電車は遅れておりますが」 は毎週火曜日に更新しています。