ケーキのシネマ。
3階建てのケーキの2階に住んでいる白いクリームは、屋上でツンとすましたイチゴがうらやましかった。いつもスター気取りで、みんなの視線をあびて、ずるい。2階の白いクリームは、パティシエが目を離したすきに屋上まで自力で登った。そして真っ赤に輝くイチゴの上におおいかぶさった。イチゴは何か叫んでいたけれど、白いクリームはかまわず身体をのばした。3階建てのケーキはすべてが真っ白におおわれた。
ふくよかなご婦人がショーケースの中に目をとめた。「まぁ美しいケーキだこと!」白いクリームはニヤリとした。すると耳もとからイチゴの声が聞こえた。(真っ白な世界から、真っ赤な私が顔を出した時の感動ったらないわね)確かにそうだ。真っ赤なイチゴが、いっそう映えるシチュエーションだ。白いクリームは悲しくなってしまった。どうころんでもイチゴは主役なんだ。自分はどうせ脇役にしかなれない。
パティシエはいつのまにか誕生したケーキを見て、目をまるくしていた。「傑作だ!このケーキにはドラマがある。」ケーキには “雪の中の宝石”という名前がついて、街じゅうの人気をさらった。真っ赤なイチゴがふわっと登場する瞬間をイメージしながら、白いクリームは巧みに身体をのばした。白いクリームは楽しかった。ジェラシーはいつのまにか消えていた。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。