ある喫茶店のある会話。
よく喋る男と、まったく喋らない女が、向かい合って座っている。よく喋る男はますます喋りの熱が上がり、まったく喋らない女は相変わらず黙り込んでいる。男は身振り手振りも大きくなり、踊り出すほどだった。女がひとこと、言葉を発した。男は口を閉じ、目を見開き、頰を紅潮させ、噛みしめるようにうつむいた。女のひとことは男の話を止めた、というより、男の気持ちを落ち着かせたらしかった。話の内容はさだかではないが、そういうことらしかった。ふたりは冷めたブラックコーヒーを飲んだ。ふたりは店を出て手をつないだ。そして区役所に向かった。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。