ポーカーフェイスと秋の入り口。
僕たちは秋が濃くなっていく道を歩いている。彼女は制服の上にカーディガンをはおっている。あずき色とからし色の落ち葉が、じゃれ合いながら風に飛ばされていく。さっきは喫茶店で彼女のココアをひと口もらった。飲んでみて、の言葉どおりに、素直に。カップを持つ手が震えないように、用心深く飲んだ。
夕暮れの空に、信号機の青がまばたきをはじめる。こんな時は素早く渡った方がいいのかな、なんてことを考えていると。彼女は歩く速度をゆるめていき、横断歩道の前でぴたりと足を止める。一緒にいられる時間が何秒かのびだ。彼女の横顔は相変わらずポーカーフェイスだったけれど、うれしかった。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。