107

地球最後の図書館。

あのこが本を読んでいる。ひとりで読んでいる。本当は隣に座りたかったけれど、僕にはそんな勇気などない。雨の音だけが響いている。僕はあのこの対角線上に位置する、一番離れた席に座る。(逆に意識しすぎかな)とおもったけれど、まぁいい。雷がバリバリと鈍い音をたてる。あのこは窓の外を見る。わぁ…という口のかたち。心配そうな横顔。何にもできない僕。もし地球が爆発したら、最後の瞬間をあのこと過ごせるのに。

あのこは本を閉じ、鞄にしまい、椅子を机にもどす。(あぁ帰ってしまうのか)立ち上がると、あのこは対角線上にある僕のもとへ近づいてくる。僕の心臓の音は、激しい雨音より大きくなっていく。まっすぐ前を向いて、あのこは僕の横を通り過ぎた。僕にはその1秒より細かい時間の粒が見えた。雨はますます盛大に降り出した。

 

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています

1
TOP
CLOSE

電車は遅れておりますが

ふわっと映像が浮かんで、
こころが6.6グラム(当社比)軽くなる。
ワンシチュエーションでつづる、
シラスアキコのショートストーリー。

自分がジブンにしっくりくる感じの時は、気分がいい。
こころと身体が同じ歩幅で歩いているのがわかる。
いつもこんな感じで生きていきたい。

でも、かなりの確率でイライラと聞こえてくる
「お急ぎのところ、電車が遅れて申し訳ございません」。

そんな時は“ここじゃないどこか”に、
ジブンをリリースしてしまおう。
きっと気持ちの針が、真ん中くらいに戻ってくるから。

シラスアキコ Akiko Shirasu
文筆家、コピーライター Writer, Copywriter

広告代理店でコピーライターとしてのキャリアを積んだ後、クリエイティブユニット「color/カラー」を結成。プロダクトデザインの企画、広告のコピーライティング、Webムービーの脚本など、幅広く活動。著書に「レモンエアライン」がある。東京在住。

color / www.color-81.com
レモンエアライン / lemonairline.com
contact / akiko@color-81.com

◎なぜショートストーリーなのか
日常のワンシチュエーションを切り抜く。そこには感覚的なうま味が潜んでいる。うま味の粒をひとつひとつ拾い上げ文章化すると、不思議な化学反応が生まれる。新たな魅力が浮き上がってくる。それらをたった数行のショートストーリーでおさめることに、私は夢中になる。

イラストレーション
山口洋佑 / yosukeyamaguchi423.tumblr.com