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ワン・エル・ディー・ケー。

荷物はすべて運び終わったものの、

部屋の中にはベッドくらいしか陣取っていない。

冷蔵庫も食器もない。(マグカップだけは持ってきた)

彼は本気で気に入ったもの以外、置かないことに決めていた。

そんな生活にずっと憧れていた。

自分だけの居場所。自分だけの世界。

彼は部屋の中を歩き回る。

いつしかスキップになっていることに気づく。

フローリングにすれる靴下の感触が、実家を思い出させる。

彼は靴下を脱ぎ捨て、裸足になった。

これでいい。ちょっと不良な男は家で靴下など履かないのだ。

冷んやりした窓に顔を近づけてみる。外はほとんど深夜だった。

そこに映った自分はとても痩せていて、黒目がぬれっと輝いていた。

ラジオから突然、アナーキー・イン・ザ・U.K.が流れてきた。

 

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

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電車は遅れておりますが

ふわっと映像が浮かんで、
こころが6.6グラム(当社比)軽くなる。
ワンシチュエーションでつづる、
シラスアキコのショートストーリー。

自分がジブンにしっくりくる感じの時は、気分がいい。
こころと身体が同じ歩幅で歩いているのがわかる。
いつもこんな感じで生きていきたい。

でも、かなりの確率でイライラと聞こえてくる
「お急ぎのところ、電車が遅れて申し訳ございません」。

そんな時は“ここじゃないどこか”に、
ジブンをリリースしてしまおう。
きっと気持ちの針が、真ん中くらいに戻ってくるから。

シラスアキコ Akiko Shirasu
文筆家、コピーライター Writer, Copywriter

広告代理店でコピーライターとしてのキャリアを積んだ後、クリエイティブユニット「color/カラー」を結成。プロダクトデザインの企画、広告のコピーライティング、Webムービーの脚本など、幅広く活動。著書に「レモンエアライン」がある。東京在住。

color / www.color-81.com
レモンエアライン / lemonairline.com
contact / akiko@color-81.com

◎なぜショートストーリーなのか
日常のワンシチュエーションを切り抜く。そこには感覚的なうま味が潜んでいる。うま味の粒をひとつひとつ拾い上げ文章化すると、不思議な化学反応が生まれる。新たな魅力が浮き上がってくる。それらをたった数行のショートストーリーでおさめることに、私は夢中になる。

イラストレーション
山口洋佑 / yosukeyamaguchi423.tumblr.com