黒い家の男。
黒い家の男は、自分の才能の凄さを知っていた。
それと同時に、自分と似たような才能を持つ人間がいることを恐れていた。
だから、世の中に触れず、ひとと会わず、いっさいの情報から逃げて暮らしていた。
腹が減れば魚を釣り、畑の野菜を食べ、雨水を飲んだ。
黒い家の男の才能は、年々衰えるどころかますますみなぎっていった。
しかし、黒い家の男はうっかり世の中と接触する機会をつくってしまった。
世の中に自分と似たような才能を持つ人間が、けっこういることを知ってしまった。
黒い家の男は、黒い家の隅で震えていた。
才能がみすぼらしくし変形してしまった。
もう二度と開花することはないと絶望した。
黒い家の男は5日間眠り続け、6日目の朝、目をあけた。
喉も渇いているし、腹も減っていたが、
そんなことより、今すぐ自分の才能に会いたくなった。
(自分の才能と似ている人間がいることなど、もうどうでもよくなっていた。)
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。