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不機嫌顔のデート服。

うちは「まかないテーラー」。ありあわせの材料で、ささっと洋服をこしらえる小さなテーラー。私がホットミルクをフーフーしてた時、呼び鈴が鳴ったの。「初デートに着ていく服をつくって欲しい」。訪ねてきた娘の口はへの字に曲がって、声はちいさく震えていたわ。

そうだ、キャラメルの包み紙をとっておいたのよ。こころが透けるワンピースをつくりましょう。不機嫌顔に眠ってる、あなたの“ おちゃめ“が伝わるように。ザーザーとミシンを動かすオト、んーんー♫の鼻歌も一緒に糸にからませて。

はい、できあがり。不機嫌顔の娘は、キャラメルの包み紙でできたワンピースを着た。ふんわりとキャラメルのあまい香りにつつまれて、キュッとむすんだ口がフニャーと溶けて笑顔になった。そうだ、庭に咲いてるお花をわけてあげるわよ。すると、上機嫌顔の娘は「女のコから男のコににお花をプレゼントするって、ちょっといいね」って。まぁ、センスいいわね!(こっちまで上機嫌になってしまうわ)

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

 

 

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電車は遅れておりますが

ふわっと映像が浮かんで、
こころが6.6グラム(当社比)軽くなる。
ワンシチュエーションでつづる、
シラスアキコのショートストーリー。

自分がジブンにしっくりくる感じの時は、気分がいい。
こころと身体が同じ歩幅で歩いているのがわかる。
いつもこんな感じで生きていきたい。

でも、かなりの確率でイライラと聞こえてくる
「お急ぎのところ、電車が遅れて申し訳ございません」。

そんな時は“ここじゃないどこか”に、
ジブンをリリースしてしまおう。
きっと気持ちの針が、真ん中くらいに戻ってくるから。

シラスアキコ Akiko Shirasu
文筆家、コピーライター Writer, Copywriter

広告代理店でコピーライターとしてのキャリアを積んだ後、クリエイティブユニット「color/カラー」を結成。プロダクトデザインの企画、広告のコピーライティング、Webムービーの脚本など、幅広く活動。著書に「レモンエアライン」がある。東京在住。

color / www.color-81.com
レモンエアライン / lemonairline.com
contact / akiko@color-81.com

◎なぜショートストーリーなのか
日常のワンシチュエーションを切り抜く。そこには感覚的なうま味が潜んでいる。うま味の粒をひとつひとつ拾い上げ文章化すると、不思議な化学反応が生まれる。新たな魅力が浮き上がってくる。それらをたった数行のショートストーリーでおさめることに、私は夢中になる。

イラストレーション
山口洋佑 / yosukeyamaguchi423.tumblr.com