39秒のメロドラマ。
まさか砂浜を歩くなんておもっていなかったから、彼女はハイヒールを履いてきたことを後悔するにも後悔しようがなかった。気まぐれな男友達は白より白い車のスピードを上げて、おまけにラジオのヴォリュームもマックスまで上げて、「海につき合って」ってと言ったっきり、ずっと黙っているものだから。
風がとても強くて、おまけに寒くて。恋人だったら彼のコートの中に逃げ込むけれど、まさかそんな仲でもないし。ぐんぐん前を歩く男友達は、よろけながら歩く彼女を振り返ることさえ知らない。ブルーグレーの海と、ダークグレーの空の、淡いコントラスト。鈍い音を立てて旅客機が登っていく。男友達は立ち止まり振り返る。ふたりのあいだのバランスが崩れた、瞬間だった。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。