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ラクトアイスを聴いたことあるかい。

気が変になってくるリズム感。音程がひっくり返る歌声。いつもへの字口の愛想のなさ。平均年齢18.7歳の女子で結成されたロックバンド“ラクトアイス”。

ある音楽評論家は「世界最悪級のおぞましいフェイク」と評し、またあるミュージシャンは「ビーチ・ボーイズのコピーを演るなんて1万年早い」と噛んでいるガムを床に投げつけた。悪評に反比例して“ラクトアイス”のレコードは飛ぶように売れ、ワールドツアーのチケットは秒速でなくなった。

ヴォーカルのリリィは、ローリング・ストーン誌の表紙の撮影中だ。栗色の髪をツインテールにして、アイスクリームになりきれない“ラクトアイス”でできた水色のアイスバーを舐めている。カールしたまつげはスタジオの屋根を突き破り、太陽と握手ができるくらい長かった。

カメラマンはできるだけおバカな女のコを撮りたいようだった。最大のヒット曲にあわせてリリィは腰を振って踊り出した。世界じゅうのラクトアイスマニアとラクトアイスアンチの大好物くらい、リリィは1万年前から知っているのだ。

(なぁんにも考えてないフリするの、得意なの)

ラクトアイスは消費されない。消費させられていたのは彼らだった。

 

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

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電車は遅れておりますが

ふわっと映像が浮かんで、
こころが6.6グラム(当社比)軽くなる。
ワンシチュエーションでつづる、
シラスアキコのショートストーリー。

自分がジブンにしっくりくる感じの時は、気分がいい。
こころと身体が同じ歩幅で歩いているのがわかる。
いつもこんな感じで生きていきたい。

でも、かなりの確率でイライラと聞こえてくる
「お急ぎのところ、電車が遅れて申し訳ございません」。

そんな時は“ここじゃないどこか”に、
ジブンをリリースしてしまおう。
きっと気持ちの針が、真ん中くらいに戻ってくるから。

シラスアキコ Akiko Shirasu
文筆家、コピーライター Writer, Copywriter

広告代理店でコピーライターとしてのキャリアを積んだ後、クリエイティブユニット「color/カラー」を結成。プロダクトデザインの企画、広告のコピーライティング、Webムービーの脚本など、幅広く活動。著書に「レモンエアライン」がある。東京在住。

color / www.color-81.com
レモンエアライン / lemonairline.com
contact / akiko@color-81.com

◎なぜショートストーリーなのか
日常のワンシチュエーションを切り抜く。そこには感覚的なうま味が潜んでいる。うま味の粒をひとつひとつ拾い上げ文章化すると、不思議な化学反応が生まれる。新たな魅力が浮き上がってくる。それらをたった数行のショートストーリーでおさめることに、私は夢中になる。

イラストレーション
山口洋佑 / yosukeyamaguchi423.tumblr.com