ラクトアイスを聴いたことあるかい。
気が変になってくるリズム感。音程がひっくり返る歌声。いつもへの字口の愛想のなさ。平均年齢18.7歳の女子で結成されたロックバンド“ラクトアイス”。
ある音楽評論家は「世界最悪級のおぞましいフェイク」と評し、またあるミュージシャンは「ビーチ・ボーイズのコピーを演るなんて1万年早い」と噛んでいるガムを床に投げつけた。悪評に反比例して“ラクトアイス”のレコードは飛ぶように売れ、ワールドツアーのチケットは秒速でなくなった。
ヴォーカルのリリィは、ローリング・ストーン誌の表紙の撮影中だ。栗色の髪をツインテールにして、アイスクリームになりきれない“ラクトアイス”でできた水色のアイスバーを舐めている。カールしたまつげはスタジオの屋根を突き破り、太陽と握手ができるくらい長かった。
カメラマンはできるだけおバカな女のコを撮りたいようだった。最大のヒット曲にあわせてリリィは腰を振って踊り出した。世界じゅうのラクトアイスマニアとラクトアイスアンチの大好物くらい、リリィは1万年前から知っているのだ。
(なぁんにも考えてないフリするの、得意なの)
ラクトアイスは消費されない。消費させられていたのは彼らだった。
*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。