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低血圧な午後のブルース。

人生のモラトリアム期間であり、大人の男になるための訓練であり、ひとの痛みを知るための1ページを、いま僕は過ごしている。

早く言ってしまえば、大学浪人をしている。何度目かの台風が過ぎて、夏が陰りをみせた予備校は、いつにも増して眠かった。(講師の声はいつにも増して大きかった)

3列前の左斜めに座っている女のコに目がいった。濃いオリーブ色の薄手のセーターを着ている。まだ誰もが“色あせた夏”に未練を残している中、彼女はふっと別の空気をまとっていた。セーターは繊細な彼女を繭(まゆ)のように用心深く包み込んで、下界のくすんだ空気に触れないようにしているようだった。

ショートボブの襟足からつながる細っそりした首のラインが「もう秋だよ」と、自分だけにささやいた、気がした。

 

 

*「電車は遅れておりますが」は毎週火曜日に更新しています。

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電車は遅れておりますが

ふわっと映像が浮かんで、
こころが6.6グラム(当社比)軽くなる。
ワンシチュエーションでつづる、
シラスアキコのショートストーリー。

自分がジブンにしっくりくる感じの時は、気分がいい。
こころと身体が同じ歩幅で歩いているのがわかる。
いつもこんな感じで生きていきたい。

でも、かなりの確率でイライラと聞こえてくる
「お急ぎのところ、電車が遅れて申し訳ございません」。

そんな時は“ここじゃないどこか”に、
ジブンをリリースしてしまおう。
きっと気持ちの針が、真ん中くらいに戻ってくるから。

シラスアキコ Akiko Shirasu
文筆家、コピーライター Writer, Copywriter

広告代理店でコピーライターとしてのキャリアを積んだ後、クリエイティブユニット「color/カラー」を結成。プロダクトデザインの企画、広告のコピーライティング、Webムービーの脚本など、幅広く活動。著書に「レモンエアライン」がある。東京在住。

color / www.color-81.com
レモンエアライン / lemonairline.com
contact / akiko@color-81.com

◎なぜショートストーリーなのか
日常のワンシチュエーションを切り抜く。そこには感覚的なうま味が潜んでいる。うま味の粒をひとつひとつ拾い上げ文章化すると、不思議な化学反応が生まれる。新たな魅力が浮き上がってくる。それらをたった数行のショートストーリーでおさめることに、私は夢中になる。

イラストレーション
山口洋佑 / yosukeyamaguchi423.tumblr.com