ボーリング場は恋を失う場所じゃない。
ザラッとすりむいた感情の傷に絆創膏も貼らないまま、11ポンドのボールを力まかせに滑らせる。彼女はたった今、失恋をしてしまった。オレンジに輝くボールはヨロヨロと回転しながら、やっとのことで2本のピンを倒す。
彼はあの娘のことが好きなんだ。それがうっかりわかってしまった。アイドルグループの懐かしいヒット曲が、大音量で鳴り響いている。大人数で盛り上がるレーンで、彼女は穴に落ちてしまった。10本のピンを派手に弾き飛ばしたのは彼だった。あの娘はハイタッチを求めている。
“あぁこの先永久に、私はボーリング場に来ると、今日のことを思い出すだろう”。彼女はおもった。
*「電車は遅れておりますが」は、毎週火曜日に更新しています*