鏡の前からもうデイトは始まっている。
今夜は恋人に会いにいくから、この街に雨を降らせ夕刻から曇り空にする必要があった。雨上がりは自分の肌と睫毛に、たっぷりと艶をつくることを知っているから。そしてその通りになった。(彼女は天候の調整もできるのだ)メイクアップを終えると、スリップ一枚で大きな鏡の前に立つ。待ち合わせたレストランの壁の色は、たしか薄いパープルだった。とすれば、ドレスは真紅よりほとんどホワイトに近いレモンイエローの方が美しく映えそうだ。ふと、初めてのデイトがフラッシュバックする。16歳の彼女は、ギンガムチェックのワンピースだった。