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スパゲッティがトンネルに入るとき。

手の中にずんと重みを覚えるシルバーのフォークに、スパゲッティを巻きつけている。オリーブオイルで“てらん”と輝いている麺には、バジルのみじん切りが細かく張りついている。フォークを時計まわりに回転させ、皿から少しずつ浮かせていくと、口に入らないくらいまで麺を集めてしまった。次は反省して2、3本の麺を集めようとすると、麺は “ぷるり”と逃げていく。まるで、真っ暗な、トンネルのような口の中に入るのを嫌がるように。そしてようやく、いい具合に麺を巻きつけたとき、ドアの呼び鈴が鳴った。インターフォンの画面には、昔別れた彼女が映っていた。(その後、彼はスパゲッティを食べたでしょうか?)

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電車は遅れておりますが

ふわっと映像が浮かんで、
こころが6.6グラム(当社比)軽くなる。
ワンシチュエーションでつづる、
シラスアキコのショートストーリー。

自分がジブンにしっくりくる感じの時は、気分がいい。
こころと身体が同じ歩幅で歩いているのがわかる。
いつもこんな感じで生きていきたい。

でも、かなりの確率でイライラと聞こえてくる
「お急ぎのところ、電車が遅れて申し訳ございません」。

そんな時は“ここじゃないどこか”に、
ジブンをリリースしてしまおう。
きっと気持ちの針が、真ん中くらいに戻ってくるから。

シラスアキコ Akiko Shirasu
文筆家、コピーライター Writer, Copywriter

広告代理店でコピーライターとしてのキャリアを積んだ後、クリエイティブユニット「color/カラー」を結成。プロダクトデザインの企画、広告のコピーライティング、Webムービーの脚本など、幅広く活動。著書に「レモンエアライン」がある。東京在住。

color / www.color-81.com
レモンエアライン / lemonairline.com
contact / akiko@color-81.com

◎なぜショートストーリーなのか
日常のワンシチュエーションを切り抜く。そこには感覚的なうま味が潜んでいる。うま味の粒をひとつひとつ拾い上げ文章化すると、不思議な化学反応が生まれる。新たな魅力が浮き上がってくる。それらをたった数行のショートストーリーでおさめることに、私は夢中になる。

イラストレーション
山口洋佑 / yosukeyamaguchi423.tumblr.com